忍の姿を直接知っている人間は、僕も含めて六人しかいないのだ――その
内二人、羽川翼は今ブラック羽川となって縛り上げられているし、忍野メメは、そのブラック
羽川の見張り役である。
残る四人、僕と千石を除けば二人。
その二人に声を掛けないわけにはいかない。
まずは、まだ与しやすい、神原駿河からだった。
携帯電話のアドレス帳から、彼女の名を選択する。もう放課後になっているから、学校にい
ても携帯電話の電源は入っているはずだ――いや、つい数日前に携帯電話を持ったばかりの神
原が、そういう校則を正確に把握しているかどうかは、怪しいところだったが――
「神原駿河だ」
相変わらずの、フルネームでの名乗りだった。
どうやら、杞憂だったようだ。
「神原駿河。得意技はBダッシュだ」
「…………」
本人的にはそうなんだ。
宅急動でも縮地法でもなく。
まあ、これに対して嘘をつけとは言えないな。
「神原駿河。職業は阿良々木先輩のエロ奴隷だ」
「それに対しては断固嘘をつけと言うぞ!」
「ん。その声と突っ込みは阿良々木先輩だな」
「僕だとわからないままにそんなとんでもねえこと言ったのかてめえは!」
「エロ奴隷ではお気に召さなかったか? まあ、確かに私も、最初はもっと私にふさわしい、
もっと別の肩書きを考えていたのだが、ちょっと過激だったので自主規制したのだ」
「お前が自主規制するような肩書きなんて、想像するだけで恐ろしいよ!」
ていうか。
くみ
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早くアドレス帳の機能を使えるようになれ。
「神原。今、学校か?」
「いや、もう下校している」
「あれ? そうなのか? 文化祭の準備は?」
「今日は当番ではないのだ」
「そっか。当番制なのか……うまく統制のとれたクラスなんだな。羨ましいよ」
なるほど。
学校にいなきゃ、電源も何もないな。
「えっと、神原、じゃあ、今、家ってことか?」
「いや、それも違う。どうした、阿良々木先輩にしては珍しい、二度も予想を外すとは。鬼の
霍乱とはこのことだ。阿良々木先輩、私は今近所のスーパーのゲームコーナーで、オシャレ魔
女ラブandベリーに興じているところだ」
「予想できるか、そんなもん!」
常に予想を裏切りやがって!
少しは思った通りの動きをしてくれよ!
「いやしかし、僕はまあよく知らないんだけど、大体、それって高校生がやって面白いゲーム
なのか……?」
「何を言う。優れたゲームに年齢など関係あるまい。今日だけで既に私は三千円近く費やして
いるぞ。後ろに何人も子供が並んでいるが、少しも譲ってやる気にならない」
「金にものを言わせてなんて酷いことをしてんだお前は! 今すぐゲームを中止して、さっさ
と子供達に替わってやれ!」
「むう。阿良々木先輩ともあろうお方が、さっき私が追い返した店員と同じことを言うんだ
な」
「追い返しちゃったのか!?」
「本気で怒られたら本気で怒り返すしかあるまい」
「違う! 本気で怒られたら本気で謝れ!」
「しかし同じことであろうとも、それが阿良々木先輩の命令とあれば是非もない。ではこれか
らは隣に置いてあるムシキングを……」
「遊んでばっかいんじゃねえよ!」
「遊び心を失ってはいかんぞ、阿良々木先輩。学ぶことより遊ぶことで、人間は成長し、歴史
を築いてきたのだからな。そうそう、遊びと言えば、この間、友達三人とトランプで大富豪を
していたときの話なのだが」
かくらん
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「『すぶりをするそぶり』さんはお前かよ!」
本当にもう、この後輩は。
可愛いにも程があり過ぎる。
可愛さ余って可愛さ百倍。
「それでは、阿良々木先輩。電話の用件を聞こう」
「ああ……」
こいつとは馬鹿な掛け合いをしてからでないと真面目な話ができないからな。ここまでのや
り取りは、前置きとして必要だったと割り切ろう。
「神原。お前の力を借りたい」
「借りるなどと、これはおかしなことを言う。私の力は最初から阿良々木先輩のものだ。阿
良々木先輩はただ、私が何をすればいいのか、指示を出してくれればそれでよい」
「…………」
格好いい……。
大人格好いい。
子供向けゲームに興じている癖に……。
ふと思ったけれど、なんでこいつ、こんなハードボイルドな性格なんだろう……こればっか
りは、戦場ヶ原の影響じゃないよなあ?
「忍を探して欲しいんだ。あのガキ、家出しやがった」
「家出?」
「要するには失踪だよ」
「そうか。わかった。そこまで聞けば、もう十分だ。つまり、私は脱げばいいんだな?」
「そんなに脱ぎたいなら今度二人きりのときにいくらでも脱がしてやるから、なあ! なんな
ら脱ぎ合いっこして見せ合いっこしようぜ、なあ! はは、僕は脱いだらすごいぞう! だか
ら神原、頼むからここは堪えて、普通に忍を探してやってくれ! 残念ながら僕はお前には他
の誰よりも期待してるんだよ! お前の自転車よりも速い脚を、僕に貸してくれ!」
「貸すなどと、これはおかしなことを言う。私のふくらはぎや太ももや膝の裏や脛や小股や足
首は、最初から阿良々木先輩のものだ」
「それはあんまりハードボイルドじゃないなあ!」
「何? 足の裏だと? さすが阿良々木先輩、神をも恐れぬマニアックな行為を……」
「言ってねえー!」
やっぱお前エロエロだよ!
戦場ヶ原のフォローがたった今無駄になった!
すね
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「それは買いかぶりだ。阿良々木先輩、所詮は私のエロさなど、女性専用車両という言葉の響
きにいやらしさを感じる程度だぞ」
「そんな奴は日本にお前だけだ!」
「そうか、なんだかんだ言って、阿良々木先輩も私をエロ奴隷だと認めてくれていたのか」
「いや、僕は奴隷とは言ってないから!」
「ああそうだ、阿良々木先輩。マニアックな行為といえばだが」
「マニアックな行為という言葉から話を拡げて掘り下げていくつもりなのか、お前は……?
僕達はまだ高校生なんだぞ……?」
「いかがわしい行為と言い換えてもいい。阿良々木先輩、昨夜、戦場ヶ原先輩といかがわしい
行為に及んだそうだな」
「
………………」
何故知っている。
いや、何故も何も、この場合……。
「うん。戦場ヶ原先輩から直接聞いた。阿良々木先輩と星空の下いかがわしい行為に及んだ
と」
「キスはいかがわしい行為じゃねえだろ!?」
まあ、その延長線上なのかもしれないけれども、なんとなくそう思いたくないのは、それは
僕がお子様だということなのだろうか……。
「ていうか戦場ヶ原さん、喋っちゃうんだ、そういうこと……」
あけっぴろげな奴だなあ……。
彼氏彼女なのだから、とりたてて疚しいところがあるわけでもないのだが……デリカシーに
欠けるって気はしなくもない。
「今日、学校で聞いたのか?」
「いや、聞いたのは昨夜だ。聞いたというか……、真夜中にいきなり電話が掛かってきて、五
時間ほど自慢話を聞かされた」
「迷惑な先輩だー!」
天文台から帰ってすぐに電話したんだとしても、ほとんど完徹じゃねえか、あいつ。朝会っ
たとき、眠そうな素振りなんて見