第27章

たいとか、そういう悩みでも力になれると

思うの」

「嫌な話だな!」

何か、無理矢理にでも話さない限り、延々と永遠にこの展開が続きそうだった。

やれやれ……。

本当にもう。

くちべた

あだ おろそ

ねぐせ

しはい

とげ ばら

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「そうだな……困っていることねえ。敢えて言うなら、それは、困っていることってわけじゃ

ないのかもしれないけれど」

「あら。何かあるの」

「そりゃ、一つくらいはな」

「何かしら。聞かせて」

「迷いがないな」

「そりゃそうよ。私が阿良々木くんにお返しできるかどうかの瀬戸際だもの。それとも、人に

は話しにくいことかしら?」

「いや、そういうわけでもないけれど」

「だったら話してみてよ。話すだけでも楽になるもの――らしいわよ」

…………。

かなりレベルの高い秘密主義者だったお前が言っても、あんまり説得力はないなあ、それ。

「えっと……妹と喧嘩した」

「……いまいち力になれそうもない話ね」

諦めの早い女だった。

まださわりを聞いただけじゃん……。

「でも、一応、最後まで聞かせて」

「一応かよ……」

「じゃあ、とりあえず、最後まで聞かせて」

「同じようなもんだろ」

「とりあえずといってもとるものもとりあえずよ」

「……。あー、まー、なあ」

さっき、自分で禁句と決めた言葉だけれど。

この展開じゃ、仕方ないか。

「ほら、今日って、母の日じゃん」

「ん? ああ、そう言えばそうだったわね」

戦場ヶ原は普通に相槌を打った。

やはり、気の遣い過ぎだったか。

となるとあとは――僕の問題だ。

「で。どちらの妹さんと喧嘩したの? 確か阿良々木くん、二人、妹さん、いたはずよね」

「ああ、知ってるんだっけ。どちらかっていうと上の方――だけど、まあ、両方みたいなもん

だ。あいつら、何するにもいつでもどこでも、5WlH、完璧にべったりとつるんでるから

せとぎわ

けんか

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な」

「栂の木二中のファイヤーシスターズだものね」

「通り名まで知ってんのかよ……」

なんかやだなあ。

妹に通り名がある方が嫌だけれど。

「あいつら、二人とも、母親にべったりでさ――で、母親の方も、そんな二人を、猫っかわい

がりしてるわけよ。で――」

「なるほど」

そこまでで得心したと言う風に、戦場ヶ原は僕の言葉を止める。みなまで言うなとばかり

に、僕の言葉を最後まで待たない。

「出来の悪い長男としては、母の日である今日本日この日、自分の家には居場所がないという

わけね」

「……そういうことだ」

出来の悪い長男、というのは、戦場ヶ原にしてみればいつもの調子の暴言のつもりなのだろ

うけれど、残念ながらそれはそのまま誇張されているわけでもなんでもない事実なので、僕

は、肯定することしかできなかった。

居場所がないとまではいかずとも。

居心地が悪いのは確かだった。

「それで、こんなところにまでツーリングというわけ。ふうん。でも、わからないわね。それ

でどうして妹さんと喧嘩になるのかしら?」

「朝早い内に、家をこっそり抜け出そうとしたんだが、マウンテンバイクに乗ったところで、

妹に捕まったんだ。で、口論」

「口論?」

「妹としては、僕にも一緒に、母の日を祝って欲しかったらしいんだが――なんていうか、ほ

ら、僕はそんなの、無理だから」

「無理、ねえ。だから、か」

戦場ヶ原は意味深長に、そう反復した。

あるいはこう言いたかったのかもしれない。

贅沢な悩み、だと。

父子家庭の戦場ヶ原から見れば――そうだろう。

「中学生くらいの女子って、お父さんを嫌うことが多かったりするけれど――男子は同じよう

に、お母さんを苦手とするものなのかしら?」

つが きにちゅう

ぜいたく

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「はあ……いや、苦手ってことじゃねーし、嫌いってわけでもないんだけれど、気まずいって

いうか、まあ、それは、妹についても、ほとんど、同じことで――」

――兄ちゃんは、そんなことだから。

――そんなことだから、いつまでたっても――

「……けどな、戦場ヶ原。そんなことは、問題じゃないんだ。妹との喧嘩とか、母の日とか、

それ自体は別に、どうでもいいんだよ――今回に限らず、なんかイベントのある日にゃ、よく

あることだから。たださあ」

「ただ、何よ」

「つまりだ。いくら色々あるとは言っても、母の日一つ祝ってやれない自分とか、四つも年下

の妹から言われた言葉に本気で腹を立てている自分とか、そういう、なんていうか、自分の人

間の小ささみたいなのが、腹立たしくて腹立たしくて、しょうがないんだよ」

「ふうん――複雑な悩みね」

戦場ヶ原は言う。

「一周して、メタ的な悩みになっているわけね。鶏が先かひよこが先か、みたいな感じだわ」

「それはひよこが先だろう」

「あらそう」

「複雑じゃなくて矮小なだけなんだよ。僕って人間小さいよなー、とか。でも、それでも、妹

に謝らなきゃならないことを思うと、滅茶苦茶、家に帰りたくないんだ。一生公園に住んでい

たい感じ」

「家に帰りたくない――か」

戦場ヶ原はそこで、ため息をついた。

「残念ながら、あなたの人間の小ささを、私の器量でどうこうすることはできないわね……」

「……努力くらいしてくれよ」

「当然ながら、あなたの人間の小ささを、私の器量でどうこうすることはできないわね……」

「…………」

確かに当然のことではあるが、そうはっきりと、しかも口惜しそうに言われると、更に落ち

込んでしまう。いや、落ち込むというほど深刻な話でもないのだが、しかし、またその深刻で

なさ加減も、小さくて嫌なのだ。

「つまらない人間だよなー、って。もっと、世界平和のこととか、人類を幸福にする方法と

か、どうせ悩むんなら、そういうことで悩みたいって、思うのに。でも、それなのに、僕の悩

みは、こんなにちっちゃい。それが――嫌だ」

「ちっちゃい――」

にわとり

わいしょう

くや

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「しょぼい、と言ってもいいかな。なんかこう、おみくじで小吉ばっかり引くみたいな、そう

いうしょぼさ」

「自分の魅力を否定してはいけないわ、阿良々木くん」

「魅力!? 僕の魅力はおみくじで小吉ばっかり引くことだったのか!?」

「冗談よ。それに、阿良々木くんのしょぼさは、おみくじで小吉ばっかり引くみたいなんか

じゃないわ」

「大凶ばっかり引くって言いたいのか」

「まさか。それはすごいことじゃない……っていうか、おいしいことじゃない。阿良々木くん

のしょぼさというのはね……」

戦場ヶ原は語りに重さを加えるために、そこで言葉をたっぷりとためて、それから、僕に

言った。

「……大吉を引き当てはしたものの、よく読むと内容的にはそんないいことも書いていないみ

たいな、そういうしょぼさなのよ」

じっくりと、その意味を咀嚼して、反芻して。

「しょぼー!」

絶叫する僕だった。

そんなしょぼい奴、生まれてこのかた聞いたこともない……それにつけても、こいつ、よく

そんなこと

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