! 無駄に!」
そして格好良過ぎて名前負けで、なんだか嫌がらせを受けているみたいだ……。ちょっとト
ンガリ過ぎというか、日本の高校三年生につけるようなニックネームじゃないよな……。
「『あららぎ』の下の方を取って、ラギなのだ」
「そりゃわかるけどさ……ニックネームなんだから、もうちょっと愛嬌がある方がいいんじゃ
ないのか?」
「それもそうだ。となると、『あららぎこよみ』の真ん中の方を取って……」
「取って?」
「らぎ子」
「それは明らかに嫌がらせだな!」
「そう言ったものじゃないぞ、らぎ子ちゃん」
「お前はもう帰れ! お前に用なんかねえよ!」
「らぎ子ちゃんが私を苛める……ふふふ、だが苛められるのは嫌いじゃない」
「くっ! マゾ相手に罵倒は通じない! ひょっとしてこいつは最強か!?」
楽しい会話だった。
ちょっと楽し過ぎるくらい。
何をしている最中なのか忘れそうだ。
「こういうこと言っちゃ不謹慎なんだろうけどさ……神原。さっきお前が言った台詞じゃない
けれど、僕、戦場ヶ原と付き合う前にお前と出会ってたら、案外お前と付き合っていたんじゃ
ないかと思うよ……」
「うん。実は私も、そう思っていた。戦場ヶ原先輩に惹かれる前に阿良々木先輩と出会ってい
たら、とな。異性に対してこんな気持ちになることは、私にしてはとても珍しい」
「はあ……」
まあ、戦場ヶ原がいなければ僕は神原と知り合うことはなかったし、それは神原の方にして
も同じなので、ありえない仮定なのだけれど。
「どうだ、阿良々木先輩。いっそのこと、あの邪魔な女を二人で殺して埋めてしまおうか」
「怖いこと言ってんじゃねえよ!」
これだけ言葉を交わしているのにお前のキャラがいつまでたってもつかみきれねえよ! 計
り知れねえ! どれだけ深い奴なんだ、神原駿河!
「戦場ヶ原はお前にとって尊敬している先輩なんだろうが……ったく、意外と腹黒い奴なんだ
な、お前は」
あいきょう
いじ
ばとう
ふきんしん せりふ
ひ
はか
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「あまり褒めるな。照れてしまう」
「褒めてねえ」
「阿良々木先輩には何を言われても嬉しいのだ」
「このマゾ女……」
「マゾ女。いいな。もっと言ってくれ」
「…………」
中学時代の戦場ヶ原を信奉していた彼女が、現在の戦場ヶ原の本性に触れ、うまくやってい
けるものなのかどうか僕は密かに心配していたのだが、その特殊な感性がある限り、いらぬ心
配は無用のようだった。
ともあれ、神原駿河。
彼女は、実は百合である。
ここまでのやり取りでわかる通り、先輩として慕っているだけではなく、戦場ヶ原ひたぎの
ことを、心の底から愛している。言ってしまえば、そう、神原と僕とは恋敵の関係にあるの
だった――それなのにこうして、僕と腕を組んで歩いているというのだから、わからない。ま
あ大方、先月末のことで、僕に対して負い目があるというか、僕に対して恩義を感じてしまっ
ているというか、そんなところなんだろうけれど……。
後輩になつかれるのは、先輩としては気分悪くはないが、でも、それが誤解の産物だという
のは、少し居心地が悪い。
忍野の言葉を借りれば――戦場ヶ原同様。
神原もまた、一人で勝手に助かっただけなのに――
「………………」
まあ、しかし、そうだな。
恩義や誤解云々はともかく、神原の中で過度によくなってしまっている僕のイメージを、あ
る程度調整しておく必要はあるかもしれない。イメージを崩しておくというのか……、あんま
りいい印象持たれ過ぎていると、いざなにかあったとき、必要以上に失望させちゃうことにな
るし。
というわけで、阿良々木暦イメージ悪化計画。
その一。
金にだらしのない男。
「神原、財布を忘れてしまった。すぐに返すから、お金を貸してくれないか」
「わかった。三万円くらいでいいか?」
お金持ちでした!
ほ
しんぽう
ひそ
ゆり
いごこち
おしの
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うーん、時間にだらしのない男……は、待ち合わせに僕が先んじて来ていた以上説得力がな
いだろうから……。
阿良々木暦イメージ悪化計画その二。
やたらとエロい男。
「神原、僕は今、女性の下着に興味があるんだ」
「ほう、奇遇だな、私もだ。女性の下着は芸術品だと、私は思っている。なんだ、話が合うで
はないか、阿良々木先輩」
話が合っちゃった!
そうだよ、僕がエロさで神原に敵うわけがないじゃないか……いや待て! 普通のエロでは
無理でも、それが特殊なエロならば僕にも勝機があるはず……!
「特に興味があるのは小学生の下着なんだ!」
「益々話が合うな! さすがは阿良々木先輩! 世間の荒波何するものぞ、素晴らしい生き様
だ!」
「評価が上がっちゃったー!」
なんでだよ。
えーっと、じゃあ、阿良々木暦イメージ悪化計画その三(もう既に面白くなってきたので当
初の目的は見失っている僕)。
誇大妄想的な夢を語る男。
「神原、僕は将来ビッグになる男だぜ!」
「言われなくとも知っている。というより、既に阿良々木先輩は途方もなくビッグではない
か。それ以上大きくなられては、そばでお仕えするのも一苦労だな」
「くっ……!」
いや、この程度は予想範囲内!
更に続けるぜ!
「僕はミュージシャンになる!」
「そうか。ならば私は楽器になろう」
「意味はわからねえけどなんだか格好いい!」
僕の中での神原の評価が上がった。
だから、なんでだよ。
「阿良々木先輩、さっきから何を言っているのだ? わざわざそんな風に言い聞かせてくれず
とも、私は阿良々木先輩のことを既にこれ以上なく敬愛しているぞ?」
「ああ、どうやらお前には何を言っても無駄なようだな……」
ますます
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僕に何を言われても嬉しいのと同様、僕がどんな人間であってもとにかく敬愛するつもりら
しい。
「しかしわからない。どうしてお前はそこまで僕のことを過大評価するんだ」
「何を
言うかと思えば」
と、神原は笑う。
「これまで私は、愚問とは『グッドモーニング』の略かと思っていたが、どうやらそういう質
問のことを言うらしいな」
「………………」
一瞬格好いい台詞かとおもったが、よく聞いてみるとその台詞はただの馬鹿だな。
「私はこの生涯を、阿良々木先輩に捧げると誓ったのだ。戦場ヶ原先輩との仲を取り持ってく
れたからというのではない。阿良々木先輩がそうするに値する人だと思うから、そう誓ったの
だ」
「誓った、か……」
「ああ。常に人々を照らし、恵みを与え続けるあの太陽に誓おうと思ったが、そう思ったのが
夜だったので、とりあえずその辺の街灯に誓っておいた」
「適当極まりねえ!」
「街灯だって人々を照らし、恵みを与え続けているではないか。街灯がなかったら大変だ
ぞ?」
「そりゃそうだけど……」
せめて月に誓えよ。
曇っていたのか?
「まあ、生涯を阿良々木先輩に捧げるなどとだいそれたこと、私には約不足かもしれんがな」
「その言葉の誤用は今となっては指摘する方が照れてしまう類のものなんだが、しかし漢字ま
で間違ってい