第6章

るというケースは珍しいな……」

うーん。

阿良々木暦イメージ悪化計画、頓挫!

「……ふむ」

阿良々木暦。

神原駿河。

そう言えば、この二人には、戦場ヶ原のことを外したところで、共通項がある。

それは二人とも、人間ではないということだ。

いや、そうは言っても、勿論、ほとんどの部位は、人間である。ただ――

あたい

とんざ

? ? ? ? ? ?

もちろん

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阿良々木暦は血液が。

神原駿河は左腕が。

それぞれ、人間ではない。

僕の血液は少なからず鬼のそれだし――神原の左腕はまるごと、猿のそれである。僕が襟足

を伸ばして、首筋にある吸血鬼の牙の痕跡を隠しているのと同様に、神原は猿の左腕を、包帯

によって隠しているというわけだ。輝かしいエースだった神原が、部活を早期引退しなくては

ならなかった真の理由はそれである。当然だ、猿の腕のままで、バスケットボールなど、でき

るわけもない。

僕も神原も、怪異に関わってしまった者なのだ。

……怪異というなら、僕の彼女にして神原の先輩、戦場ヶ原ひたぎもまた、同じように怪異

に関わっている。

僕は鬼。

神原は猿。

戦場ヶ原は、蟹だった。

だが、戦場ヶ原と、僕と神原との違いは決定的だ――戦場ヶ原は二年以上の間、怪異と対立

し続けて、ついに、その怪異を祓い、人間に還った。僕と神原は、怪異を祓いこそしたものの

――人間でない部分が、体内に残ってしまっている。言うなら僕らの場合、僕達自身が怪異み

たいなものなのだ――怪異にかかわって、怪異になってしまったようなものなのだ。

それは。

あまりにどうしようもない、共通項だ。

「ん? どうした? 阿良々木先輩」

「え……いや、別に」

「そんな暗い顔をしていては、折角のデートが台無しだぞ」

「デートって……いや、もういいけど」

「ところで、阿良々木先輩。さっきは聞きそびれてしまったのだが、山に行って、それからど

うするのだろう。行為に及ぶ以外に、山でやることなどあるのか?」

「それを本気で言っているんだとしたら、お前はワンダーフォーゲル部にだけは入っちゃいけ

ない奴だな……つーか、お前、山にあんまり馴染みとかないのか?」

「中学生の頃、クロスカントリーもどきということで、山中ダッシュを部活のトレーニングに

盛り込んだことはあったな。捻挫する者が出てしまい、中止に追い込まれたが」

「はあん」

お前にとっちゃ山もトレーニングの舞台か。

? ?

? ?

? ?

きば

かに

はら ? ? ? ? ? ?

? ? ? ? ? ? ?

せっかく

なじ

ねんざ

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まあ、こいつをバスケットボール部のエースにせしめたのは、技術云々というよりも、僕の

背丈を軽く飛び越せてしまうような、その圧倒的な脚力だからな。

「そういう阿良々木先輩は、どうなのだろう、山に馴染みがある人なのか?」

「いや、特にそういうわけでは……」

「しかし男子は子供の頃、カブトムシやらクワガタやら、取りに行くものだろう」

「クワガタねえ」

「うむ。黒いタイヤだ」

「タイヤは普通黒いだろう……」

しかもそんなものが山で採れるか。

それはもう、ただの不法投棄だ。

「まあ、いずれにせよ、デートで行くような場所じゃないのかもな――季節も季節だし。昨日

も、一通り説明したつもりだったんだけど、ほら、忍野からの仕事だよ」

「忍野? ああ、忍野さんか」

そう聞くと、神原が複雑な顔をした。この後輩にしては珍しい反応だが、まあ、さもありな

んという感じだ。

忍野メメ。

僕にせよ神原にせよ戦場ヶ原にせよ――全員、その男に助けられた。いや、助けられたなん

て言い方を、やっぱり忍野は許さないだろう。一人で勝手に助かったと、それはあくまでも、

そう言うしかないのだ。

怪異の専門家にして根無し草の放浪者。

趣味の悪いアロハに軽薄な性格。

大人として尊敬のできる相手では決してないが、それにしても、僕らがあいつに世話になっ

たことは、揺るぎのない事実である。

「ああ。あの山の中に、今はもう使われていない小さな神社があるそうなんだけど、そこの本

殿に、お札を一枚、貼ってきてくれ――っていう、そういう仕事」

「……なんだそれは」

不思議そうに聞き返してくる神原。

「お札というのも不可解だが、しかし、そんなの、忍野さんが自分でやればいいのではないの

か? あの人は基本的に暇なのだろう?」

「僕もそう思うけど、まあ、『仕事』だよ。僕はあいつに世話になったとき、洒落にならない

ような多額の借金をしちまってるからな。……お前だってそうなんだぜ? 神原」

「え?」

ふだ

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「お前のときはなんだか有耶無耶になっちゃってるけど、あいつはあれでもれっきとした専門

家なんだから。ロハで力を貸してくれるほど甘くはないさ。世話になった分は、働いて返さな

きゃ」

「ああ、それで――」

神原は得心いった風に頷く。

僕はそんな神原の言葉を「そう」と、継いだ。

「だから、僕はお前を呼び出したってわけ。昨日、忍に血ィ飲ませに行ったとき、忍野に頼ま

れてな。お前も一緒に連れて行くよう、忍野から言われたんだ」

「そう言えば、忍野さんは執拗なほど、『力を貸す』というような言い方をしていたな……ふ

む。なるほど、借りたものは返さなければならないというわけか」

「そういうこと」

「わかった。そういうことならば是非もない」

神原はぎゅうっと、より強く、僕の腕に抱きついてきた。その行為の意味は複雑そうで推し

量ることができないが、どうやら、何かを決意したらしい。まあ、そういう意味では、貸し借

りとかに関しては、神原駿河、とても義理堅そうな性格をしているようだしな。

「しかし、あの山なら何度か近くを通ったことがあるが、神社があるとは知らなかった」

「僕も知らなかったよ……もう使われていないとは言え、そこにあることくらいは知ってても

よさそうなものなのに。なんであいつ、地元の人間が知らないようなスポットを知ってんだろ

うな。今あいつが住み着いてる、学習塾跡にしたってそうなんだけど」

怪異と言うより、案外、廃墟に詳しい奴なのかもしれない。しかしまあ、公衆電話のことも

そうだけれど、そんな神社やら学習塾やらの廃墟が、変な奴らのたまり場になったりしないと

ころが、果てしなく田舎町だよなあと、僕は思う。……学習塾の方に関しては、忍野と忍が住

み着いちゃってる段階で、変な奴らのたまり場になっていると言えなくはないのだが……。

「しかし――そういう言[#ママ]なら、戦場ヶ原先輩もまた、今日は一緒に来なければなら

なかったのではないのか? 阿良々木先輩。戦場ヶ原先輩も確か、忍野さんの世話に――」

「戦場ヶ原はその辺如才ないからな、もう借金は返済済みだよ。あのとき、お前の目の前で、

僕、忍野に十万円渡してたろ? あれだ」

「ああ、そう言われてみれば、そんなことを言っていたような気もするな。なるほど、あれは

そういう意味だったのか……ふうむ。さすがは戦場ヶ原先輩だ」

「あいつは義理

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