ひかれやすくなる。それは本当なんだけど、普通、一度怪異にか
かわった人間は、怪異をその後、避けようとするものなんだけれど」
「…………」
「そうやって、バランスが取れるのさ。さっきのツンデレの話じゃないけど、お節介とか面倒
見いいとか、阿良々木くんは女の子のことを色々言ってるけど、それは全部阿良々木くん自身
のことなんだよね――いや、それ自体は別にいいよ。僕もそんな性格の阿良々木くんが羨まし
いもんだからね、ついつい憎まれ口を叩いちゃうけど、それはそれでいいと思うんだ。でもね
――僕がいなくなった後は、どうするつもりだい?」
「いや――それは」
そんなことは――考えてもみなかった。
勿論、忍野がいつまでもこの町に滞在し続けるなんてことはありえないと、それは考えるま
でもなくわかっていたことではあるけれど――忍野がいなくなったその後の話なんて、それは
あまりに、唐突過ぎる。
今しなくちゃいけない話なのか?
「怪異ってのは、当たり前のようにそこにいるものなんだからさ――意図的にかかわるべきも
のじゃないんだよ。それは、どうあれ、加害者になりかねない。阿良々木くんは、心配性過ぎ
ると思うな。過保護過ぎる。ほっといてもいいものまで――どうにかしようとする傾向にある
よ」
「でも……」
それでも。
たいざい
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「知ってしまったら――どうしようもないだろう。そういうものがあるってことを、僕はも
う、どうしようもなく知ってしまっているんだから――見てみぬ振りはできないし、知って知
らぬ振りもできないよ」
「はっはー、いっそ、委員長ちゃんみたいに、全部、忘れちゃえればよかったかい? 阿良々
木くんみたいなのには、ひょっとしたらその方がいいのかもね。忍ちゃんのこととか――全部
忘れてさ」
「忘れるなんて――」
そんなこと。
無理に決まっている。
羽川みたいには、いかないのだ。
「そうだ、忍ちゃんのことも――そうだよね。うん。僕がいなくなったら、忍ちゃんの面倒
は、阿良々木くんが一人で見なくちゃいけないんだよね。それは、阿良々木くんが選んだ選択
肢なんだから――勿論、忍ちゃんを見捨てようとどうしようと、それは阿良々木くんの勝手だ
けど」
「それは――忍野」
「常に意識していなくちゃ駄目だよ。忍ちゃんは、人間じゃないんだから。変な感情移入はす
るべきじゃない。吸血鬼なんだから。あんなナリになっても、それは変わらず――ね」
「…………」
「意地悪、言っちゃったかな? まあ安心していいよ、ここまで深い仲になったんだ、ある日
突然、挨拶もなしで姿を消したりはしないさ。僕も大人だからね、そこら辺は弁えてる。で
も、高校卒業後の進路のことを考えるんなら――ついでに、そういうことを考えてみてもいい
と思うよ」
「手当たり次第人を助けようとするのは、無責任だってことか? 誰にでも優しいのは無責任
――羽川にも言われたけどよ。でも、忍野。僕はお前みたいにはなれないよ。お前の言う通
り、僕は一割くらい、吸血鬼――怪異そのものだからな。怪異を祓う側の人間にはなれない
さ」
そうなったとき、まず、いの一番に祓わなければならないのは、この僕自身だ。
そして忍だ。
それは――できない。
僕には、できなかった。
「そうでもないと思うけれどね。所詮こんなの、知識とノウハウだし。半人半妖の憑き物落と
しなんて、漫画のキャラみたいで格好いいじゃん」
わきま
しょせん
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「まあ……アロハ服の専門家がいるんだから、それもありなのかもしれないけどな……」
「それに」
忍野は言った。
「阿良々木くんは、いつだってその気になれば……、忍ちゃんを見捨てればいつだって、完全
な人間に戻れるんだってこと――僕としては、それも、忘れないでいて欲しいな」
006
場所は、例の神社跡だった。
山の上の、廃れた神社。
時間は、準備をしている内に、真夜中になった。
翌日に回すことも考えたが、あと一日もすれば鱗の痕――蛇切縄の巻き憑きは首にまで達す
る恐れがあったため(そうなったら隠しようがない。まさかこの季節にマフラーを巻くわけに
もいくまい――いくら、常人には見えない鱗の痕跡だとは言ってもだ)、一刻一秒を争うと考
え、夜中であろうと、実施することに決めた。僕の家は僕に関しては放任主義だし、神原もま
た言うに及ばずだったが、千石は現役中学生ということで、門限に関して若干の問題が生じた
が、学校の友達にアリバイ作りを依頼し(お泊り会があるとか、なんとか)、その点は回避し
た。当たり前だが、呪いを掛けてきたその友達以外にも、千石には友達はいるらしい。
友達が多いのは結構なことだ。
と、思う。
そもそも、ことの原因となった神社跡でことを行なうということについて、僕は最初、少な
からず不安を覚えたものだったが、忍野は「それは大丈夫だよ」と太鼓判を押した。もうお札
を貼ったからそう言うのかと思ったが、そうではなく、手順の問題だという。たとえ相手がよ
くないものであっても、それを味方につければいいだけの話だ――そうだ。そういう場である
からこそ、蛇切縄の存在が際立つ――とか、触れやすくなる――とか、そんなことを言ってい
た。
正直、よくわからなかったが。
まあ、専門家の言うことだ。信用しよう。
三階の部屋にいた忍に軽く挨拶してから(やはりミスタードーナツ関連で忍野と喧嘩をした
らしい。また忍野が、忍の好きなドーナツを全種類食べてしまったそうだ。忍野メメ、大人気
? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ?
? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ?
? ? ? ? ?
けんか
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ないというより子供っぽい)、学習塾跡を出、僕は寄り道をせずに、自宅へ帰った。果たし
て、神原は、ずっと同じ部屋にいた千石にも、帰ってきていた二人の妹達にも、手を出しては
いなかった。
「よく頑張ったぞ、神原! よく我慢した!」
「うん……阿良々木先輩のその真剣な褒め言葉を聞いて、初めて、私は今まで、ちょっと阿
良々木先輩の前でふざけすぎたの
かもしれないと、後悔しているぞ……」
落ち込み気味の神原だった。
口説くどころか、ちゃんと千石の話し相手になってあげていたらしい。むしろ引っ込み思案
な千石の方から、
「暦お兄ちゃん。神原さんは優しかったよ」
と、見かねたフォローがあったくらいだ。
「ブルマー、貸してくれたし」
「それは優しさの基準にはならない」
千石に対する記念すべき初突っ込みだった。
とにかく、他の連中と違って、千石との会話には途中にギャグがほとんど入らないので、僕
としてはやりづらい。あいつらのせいで、すっかり僕は、普通の会話と言うものができない奴
になってしまったらしい。悪いが、千石にはその流儀に付き合ってもらうことになる。
僕が妹二人の相手をしている隙に、二人には家を抜け出してもらい、その