第47章

応援すること

しかできない自分がもどかしいわ」

「いや、ごめんなさいと謝罪することもできると思うけれど……」

しかし。

謝ってもらってもどうにもならない。

謝って済むなら警察はいらないのだ。

「困ってるっていうよりは、僕は今、とてもとても疲れてる感じだよ」

「確かに、いろはにへとへとみたいね」

「いろはにへとへと? 面白いな、それ……」

しかし、笑ってやる気になれない。

心に余裕がないのだった。

ともかく。

「おい戦場ヶ原……お前、本当にどういうつもりなんだよ」

「戦場ヶ原? それは私のことを指しているのかしら。それとも、お父さんのことを指してい

るのかしら」

「………………」

この女……この女だけは……。

いや、落ち着け、僕……今思っていることをそのまま口にしたら別れ話になってしまうぞ…

かな

はかな

あららぎ

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…。

「お父さん。阿良々木くんが呼んでいるわよ」

「ひたぎさん! 僕が呼んだのはひたぎさんです!」

さすがに呼び捨てにはできなかった。

ひたぎさん。

つい先日、神原と行なった『下の名前で呼び合う』イベントを、実際の恋人とはこんな風に

迎えることになるなんて、一体誰が予想しただろう……。

「何かしら。阿良々木くん」

「…………」

お前は呼ばないのな。

別にいいけどさ。

「で、ひたぎさん。改めて訊くけど……聞かせてもらうけれど。お前、どういうつもりなんだ

よ。何を企んでいるんだ」

「何も企んでなんていないわよ。そんなことより阿良々木くん。黒岩涙香という高名な推理作

家がいるんだけれど、この人の名前、分解すると『黒い』『悪い』『子』になるのよ。これっ

てわざとやってるんだと思う?」

「どうでもいいよそんな話題! 黒い子も悪い子もお前のことだ!」

「親の前で酷いことを言うわね」

「うっ……!」

トラツプだった!

引っかかっちゃった!

「お父さん。あなたの娘は黒い子で悪い子らしいわ」

報告してるし……。

戦場ヶ原父は、それに対して相変わらずの無反応。

黒い子で悪い子のこういった所業には、戦場ヶ原父は案外、慣れっこなのかもしれなかっ

た。そうだよなあ、考えてみれば、自分の子供なんだもんな……。

じゃあ、僕があまり取り乱しても仕方ないか。

いいように踊らされてばかりでも曲がない。

「あら。また静かになっちゃったわね。少しいじめ過ぎたかしら」

戦場ヶ原は僕の方を向いて言う。

「阿良々木くんって反応がいいから、ついつい凹ましたくなっちゃうのよ」

「その台詞に何より凹むよ……」

むか

くろいわるいこう

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全く。

よし、反撃を試みよう。

たまには戦場ヶ原の凹んだところを見てみたい。

「お前は、僕のどういうところが好きなんだ?」

「優しいところ。可愛いところ。私が困っているときにはいつだって助けに駆けつけてくれる

王子様みたいなところ」

「僕が悪かった!」

何故反撃しようなどと思ってしまったのだろう。

この分野に関しては一日の長どころか千年の長があるこの性悪女に対し、こともあろうか嫌

がらせで対抗しようだなんて……。

平坦そのものの戦場ヶ原。

この女に感情はないのだろうか。

こっちは、ただの嫌がらせ返しだとわかっていても、そんなことを言われて、心臓がばくば

くになっていると言うのに……。

「わからない……どうしてなんだ……どこでどう選択肢を間違えてしまって、僕はこんな茨の

道を歩んでるんだ……」

「いいじゃないの、茨の道。綺麗な薔薇の花が一杯咲いている道を優雅に歩いているイメージ

で、とてもゴージャスでビューティフルよ」

「いい解釈をしてんじゃねえ!」

「薔薇の花言葉は――愚かな男」

「嘘をつけ! 適当なことほざいてんじゃねえ!」

「そういえば」

と、戦場ヶ原は言った。

自分の都合でぽんぽん話題を変える奴だ。

「そういえば、ゴミ……いえ、阿良々木くん」

「今お前、自分の彼氏をゴミと言いかけたか?」

「何を言っているの、いわれのない言いがかりはやめて頂戴。そんなことより阿良々木くん、

この前の実力テスト、どうだったの?」

「あん?」

「ほら、私が、私の家で、二人きりで、昼となく夜となく、散々面倒見てあげたじゃない」

「………………」

何故わざわざそんな言い方をする……。

いばら

ばら

おろ

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父親のいるところで、父親不在のときに家で二人きりになった話題など……。

「テストは先週末には全て返ってきたというのに、阿良々木くんはその話題には触れたがらな

いから、これは酷い散々な結果だったのかしらと思って今日まで興味のない振りをしてきてあ

げたのだけれど、でも、今日、羽川さんに少し聞いたところ、そんな悪くはなかったらしい

じゃない?」

「羽川?」

「あの子、さすがに口が堅いから、具体的には聞き出せなかったけれど、赤点だったとするな

ら教えてくれたはずだもの」

「………………」

そりゃあ嫌な訊き方をしたみたいだな。

校門のところで、羽川が、戦場ヶ原についてなんだか不自然な話の振り方をしてきたと思っ

たが、なるほど、あのやり取りにはそういう伏線があったわけか。

実力テストの結果については、昨日、あの本屋で、羽川には話したからな……しかし、戦

場ヶ原の物言いはともかくとして、あれだけ世話になっておいて一言の報告もなしというの

は、確かに礼を欠くかもしれなかった。それこそ羽川に相談した、大学受験のことがあるか

ら、なんとなく言えてなかったんだよな……。

「何を言い惜しんでいるの。早く具体的な点数を教えなさい。勿体ぶっているようだと、身体

中の関節を全部反対向きに折り曲げて、なんだか逆に格好いいみたいな体型にしてあげるわ

よ」

「その体型に格好いい要素はひとつもねえ!」

「格好悪い?」

「格好悪いなんてレベルの話じゃない!」

「(笑)?」

「笑えねえー!」

「さあ、ブリッジでしか歩けない身体にされたくなかったら、早く教えなさい」

「いや、関節を全部反対向きに折り曲げられたら、それどころじゃすまないから!」

死にます。

作業が終わるまでに五回くらい死にます。

「まあ、そうだな、もっと早く言っておくべきだったな。悪い悪い。うん、思ってた以上の点

が取れたよ。元々得意教科であったはずの数学ですら、いつもより伸びてたくらいだった。お

前のお陰だ、ありがとう、戦場ヶ原」

「お父さん、阿良々木くんがお父さんにお礼を言っているみたいなのだけれど、聞いてあげて

かっこわらい

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くれないかしら」

「ありがとうひたぎさん!」

もう何がなんだか。

ともあれ、僕は戦場ヶ原に、五教科六科目の、それぞれの点数を、詳細に告げた。戦場ヶ原

は「ふむふむ」と頷きながら、どの問題を間違えたのか、どこがわからなかったのかなどを、

僕から聞き出した。……この女は、受けた試験の問題を全部憶えているのかと、ちょっと驚か

された。まあ、僕の勉強の面倒を見ながら学年七位の総合得点を取るような

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