第62章

、予測はついている。

僕としては。

「あの――阿良々木くん。ゴールデンウィークのこと、さ。私……思い出したんだけど」

「そう――なのか」

頭痛。

頭痛の意味――だ。

「いや、そうじゃないのかな。忘れてることがあるのを、思い出したって感じだね……何が

あったのかは、どんなに頑張っても、ぼんやりとしか思い出せないんだけど」

「ああ――まあ、そうだろうな。究極的なところまでは、思い出すのは無理なはずだよ」

と言うより、忘れていることを思い出すことさえ、無理だったはずなのだ。羽川は、あの悪

夢の九日間を、想起することなど、もうないはずだったのにそれなのに。

「今までさ……漠然と、私、忍野さんと阿良々木くんに助けられたってことだけ、わかってた

けど……不思議なものだよね。どんな風に助けてもらったかはおろか、何から助けてもらった

のかさえ、私、憶えてなかったなんて――おかしな催眠術でもかけられてたみたい」

「催眠術……か」

それとは全く違うものだけれど。

しかし、その考え方がしっくりくるのも確かだ。

「まだすっきりはしないけれど――でも、思い出せてよかったよ。忍野さんと阿良々木くん

に、これでようやく、ちゃんとお礼が言えるもん」

「そうか――でも、助けられたってのは違うぜ。忍野いわく――」

さいみんじゅつ

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「一人で勝手に助かっただけ――でしょう?」

「そうだ」

その通りだ。

特に僕は、何もしちゃいない。

大体、羽川の猫の件に関しては、一番よく働いてくれたのは、忍だからな――もしも羽川が

感謝しなければならない相手がいるのだとすれば、それは忍野メメでも阿良々木暦でもなく、

金髪の少女、忍野忍だということになるだろう。

「猫」

羽川は言った。

「猫――なんだよね」

「…………」

「そこは、思い出した――あのときの猫、なんだよね。阿良々木くんと一緒に埋めてあげた―

―あの猫。うん……そこは、思い出した」

「そのときは――まだ、お前はお前だったからな」

「え?」

「いや――でも、羽川。僕をこうして呼び出したってことは、思い出したってだけじゃ――な

いんだろう?」

いくら、出席日数云々の問題がクリアされていたとしても、それだけの理由で、羽川が僕に

学校をサボタージュさせるわけもない。

思い出しただけじゃなく、その先の何かがあって――記憶の想起は、本来、そのついででし

かないはずだ。

「そうよ」

羽川は肯定した。

それにしては、毅然とした態度だった――さすがに、芯の強い奴は達う。一昨日の千石との

会話とは、較べるべくもない。

「怪異――か」

怪異。

怪異には、それに相応しい理由がある。

「そう……だから」

と、僕を見る羽川。

「阿良々木くんには、忍野さんのところへ、案内してもらおうと思って……忍野さんって、ま

だ、あの学習塾跡に住んでるんでしょう? それはわかるんだけど、そこまでの道筋が、どう

? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ?

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きぜん

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も、わからなくって――」

「…………」

わからないのではない。

忘れているのだ。

場所が潰れた廃墟となれば、地図で調べるには限界があるからな……古い地図を紐解けば不

可能ではないだろうが、急を要するこの事態においては、時間が掛かりすぎる。それよりも、

僕にSOSを打った方が早いというわけだ。

「道案内、頼んでもいいかしら」

「そりゃ、勿論――」

断る理由がない。

この時間、この午前中という時間、忍野は恐らく眠っているだろうから、寝込みを訪ねるこ

とになってしまうが、そんなことを言っている場合でもないのは確かだ。低血圧なのか何なの

か、あんまり寝起きのいい奴じゃないんだが……やむをえまい。

「――勿論だけど、その前に、二、三、質問させてもらっていいか?」

「え……いいけど、なんで?」

「怪異に関しちゃ、何かあるたび、忍野に頼りっぱなしだからな。自分達にできることがあれ

ば、自分達でなんとかしようとする姿勢は、保っとかなきゃならないんだ。最終的に丸投げに

するにせよ、話の骨子は整理しておかないと」

「あ……そうだね」

納得した風の羽川だった。

「いいよ。じゃあ、何でも訊いて」

「頭痛っつってたよな。最近よくあるみたいなことを言ってたけれど、それって、正確にはい

つ頃からなんだ?」

「いつ頃……」

「お前なら憶えてるだろ」

「……一ヵ月くらい前――かな。ん、でも、最初はそれほどでもなくって――でも、一昨日

と、昨日……両方、阿良々木くんの前でだったけれど、本屋さんと、学校の正門のところで、

あった頭痛は……実は、かなり酷かったの」

「言えよ。そのとき」

「ごめん。阿良々木くんに心配かけたくなかったし」

「……まあ、いいけどさ。じゃあ……ゴールデンウィークが終わって以来、猫に関するエピ

ソードってのはあるか?」

こっし

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「猫に関するエピソード?」

「黒猫が目の前を横切ったとか、そういうレベルでいいんだけど」

「…………」

眼を閉じて、記憶を探る仕草をする羽川。

正直、そんなことが、思い出そうとして思い出せるものなのかどうか、わからないが……、

まあ、あの戦場ヶ原をして、世界が違うと言わしめるような『本物』だからな……。

常識で計れば怪我をする。

だからこそ彼女は――怪異に見舞われたのだ。

「五月二十七日、夜頃に聞いていたラジオ番組で、ラジオネーム『大熊猫大好き』さんの葉書

が読まれていたけれど、それが何か関係あると思う?」

「……いや、ないと思う」

すげえ。

わかってたけど、すげえ。

「ちなみに葉書の内容はこうだったわ。『漫画やアニメなんかでは気楽そうにもてはやされて

いますけれど、メイドっていうのは、意外と大変な仕事なんですよ。萌え萌え言っていればい

いっ

てものじゃないんです。本当、休む暇なんて全然ないらしいですから。この間、合コンで

会ったときに聞いたから間違いありません』」

「いや、そこまで説明しなくていいから!」

「ところで、阿良々木くん、この葉書、何が面白いんだと思う? 私にはちょっとわからない

んだけど」

「えーっと、だから、メイドは休む暇なんて全然ないとか言っておきながら、ちゃっかりお気

楽な合コンに参加してるじゃんってところが笑える――って、なんで僕がそんな見も知らぬ

『大熊猫大好き』さんの、言葉が足りないギャグのフォローをしなくちゃならねえんだよ!」

「ああ。『合コンで会ったとき』の会った相手がメイドだってことなんだ。なるほど、そう聞

けば面白いのかもしれないけれど、やっぱり、一回聞いただけじゃ、ちょっとわかりにくいか

な」

「そもそも、よく考えてみりゃ大熊猫は猫じゃなくてパンダだろうが」

「うん。そう言えばそうだね」

「他には?」

「ん? 他? えっとね、同じ番組で、ラジオネーム『すぶりをするそぶり』さん

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