、予測はついている。
僕としては。
「あの――阿良々木くん。ゴールデンウィークのこと、さ。私……思い出したんだけど」
「そう――なのか」
頭痛。
頭痛の意味――だ。
「いや、そうじゃないのかな。忘れてることがあるのを、思い出したって感じだね……何が
あったのかは、どんなに頑張っても、ぼんやりとしか思い出せないんだけど」
「ああ――まあ、そうだろうな。究極的なところまでは、思い出すのは無理なはずだよ」
と言うより、忘れていることを思い出すことさえ、無理だったはずなのだ。羽川は、あの悪
夢の九日間を、想起することなど、もうないはずだったのにそれなのに。
「今までさ……漠然と、私、忍野さんと阿良々木くんに助けられたってことだけ、わかってた
けど……不思議なものだよね。どんな風に助けてもらったかはおろか、何から助けてもらった
のかさえ、私、憶えてなかったなんて――おかしな催眠術でもかけられてたみたい」
「催眠術……か」
それとは全く違うものだけれど。
しかし、その考え方がしっくりくるのも確かだ。
「まだすっきりはしないけれど――でも、思い出せてよかったよ。忍野さんと阿良々木くん
に、これでようやく、ちゃんとお礼が言えるもん」
「そうか――でも、助けられたってのは違うぜ。忍野いわく――」
さいみんじゅつ
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「一人で勝手に助かっただけ――でしょう?」
「そうだ」
その通りだ。
特に僕は、何もしちゃいない。
大体、羽川の猫の件に関しては、一番よく働いてくれたのは、忍だからな――もしも羽川が
感謝しなければならない相手がいるのだとすれば、それは忍野メメでも阿良々木暦でもなく、
金髪の少女、忍野忍だということになるだろう。
「猫」
羽川は言った。
「猫――なんだよね」
「…………」
「そこは、思い出した――あのときの猫、なんだよね。阿良々木くんと一緒に埋めてあげた―
―あの猫。うん……そこは、思い出した」
「そのときは――まだ、お前はお前だったからな」
「え?」
「いや――でも、羽川。僕をこうして呼び出したってことは、思い出したってだけじゃ――な
いんだろう?」
いくら、出席日数云々の問題がクリアされていたとしても、それだけの理由で、羽川が僕に
学校をサボタージュさせるわけもない。
思い出しただけじゃなく、その先の何かがあって――記憶の想起は、本来、そのついででし
かないはずだ。
「そうよ」
羽川は肯定した。
それにしては、毅然とした態度だった――さすがに、芯の強い奴は達う。一昨日の千石との
会話とは、較べるべくもない。
「怪異――か」
怪異。
怪異には、それに相応しい理由がある。
「そう……だから」
と、僕を見る羽川。
「阿良々木くんには、忍野さんのところへ、案内してもらおうと思って……忍野さんって、ま
だ、あの学習塾跡に住んでるんでしょう? それはわかるんだけど、そこまでの道筋が、どう
? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ?
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? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ?
? ? ? ? ? ?
きぜん
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も、わからなくって――」
「…………」
わからないのではない。
忘れているのだ。
場所が潰れた廃墟となれば、地図で調べるには限界があるからな……古い地図を紐解けば不
可能ではないだろうが、急を要するこの事態においては、時間が掛かりすぎる。それよりも、
僕にSOSを打った方が早いというわけだ。
「道案内、頼んでもいいかしら」
「そりゃ、勿論――」
断る理由がない。
この時間、この午前中という時間、忍野は恐らく眠っているだろうから、寝込みを訪ねるこ
とになってしまうが、そんなことを言っている場合でもないのは確かだ。低血圧なのか何なの
か、あんまり寝起きのいい奴じゃないんだが……やむをえまい。
「――勿論だけど、その前に、二、三、質問させてもらっていいか?」
「え……いいけど、なんで?」
「怪異に関しちゃ、何かあるたび、忍野に頼りっぱなしだからな。自分達にできることがあれ
ば、自分達でなんとかしようとする姿勢は、保っとかなきゃならないんだ。最終的に丸投げに
するにせよ、話の骨子は整理しておかないと」
「あ……そうだね」
納得した風の羽川だった。
「いいよ。じゃあ、何でも訊いて」
「頭痛っつってたよな。最近よくあるみたいなことを言ってたけれど、それって、正確にはい
つ頃からなんだ?」
「いつ頃……」
「お前なら憶えてるだろ」
「……一ヵ月くらい前――かな。ん、でも、最初はそれほどでもなくって――でも、一昨日
と、昨日……両方、阿良々木くんの前でだったけれど、本屋さんと、学校の正門のところで、
あった頭痛は……実は、かなり酷かったの」
「言えよ。そのとき」
「ごめん。阿良々木くんに心配かけたくなかったし」
「……まあ、いいけどさ。じゃあ……ゴールデンウィークが終わって以来、猫に関するエピ
ソードってのはあるか?」
こっし
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「猫に関するエピソード?」
「黒猫が目の前を横切ったとか、そういうレベルでいいんだけど」
「…………」
眼を閉じて、記憶を探る仕草をする羽川。
正直、そんなことが、思い出そうとして思い出せるものなのかどうか、わからないが……、
まあ、あの戦場ヶ原をして、世界が違うと言わしめるような『本物』だからな……。
常識で計れば怪我をする。
だからこそ彼女は――怪異に見舞われたのだ。
「五月二十七日、夜頃に聞いていたラジオ番組で、ラジオネーム『大熊猫大好き』さんの葉書
が読まれていたけれど、それが何か関係あると思う?」
「……いや、ないと思う」
すげえ。
わかってたけど、すげえ。
「ちなみに葉書の内容はこうだったわ。『漫画やアニメなんかでは気楽そうにもてはやされて
いますけれど、メイドっていうのは、意外と大変な仕事なんですよ。萌え萌え言っていればい
いっ
てものじゃないんです。本当、休む暇なんて全然ないらしいですから。この間、合コンで
会ったときに聞いたから間違いありません』」
「いや、そこまで説明しなくていいから!」
「ところで、阿良々木くん、この葉書、何が面白いんだと思う? 私にはちょっとわからない
んだけど」
「えーっと、だから、メイドは休む暇なんて全然ないとか言っておきながら、ちゃっかりお気
楽な合コンに参加してるじゃんってところが笑える――って、なんで僕がそんな見も知らぬ
『大熊猫大好き』さんの、言葉が足りないギャグのフォローをしなくちゃならねえんだよ!」
「ああ。『合コンで会ったとき』の会った相手がメイドだってことなんだ。なるほど、そう聞
けば面白いのかもしれないけれど、やっぱり、一回聞いただけじゃ、ちょっとわかりにくいか
な」
「そもそも、よく考えてみりゃ大熊猫は猫じゃなくてパンダだろうが」
「うん。そう言えばそうだね」
「他には?」
「ん? 他? えっとね、同じ番組で、ラジオネーム『すぶりをするそぶり』さん