第63章

。『この

間、友達三人とトランプで大富豪をしていたときの話です。カードが配られたあとで、そのう

ちの一人が言い出しました。「あたしの中学校じゃ、4が一番強いカードだっていうルール

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だったんだけど」』。ふつおたのコーナーだから多分実話だと思うんだけど、これほどこが面

白いの?」

「いや、他にはっていうのは、面白さがわかりにくかった葉書は他にはなかったかって意味で

訊いたんじゃねえよ! ちなみにその葉書は、大富豪は8切りだったり都落ちだったり、ロー

カルルールが非常に多いという前提条件を理解した上で聞かなくちゃならない話で、そのロー

カルルールシステムをタテにとって、自分の手元に配られたカードに都合のいいルールをでっ

ち上げた友達がいたっていうのが笑いどころだ!」

「ああ、なるほど。さすが阿良々木くん」

「こんなことで感心されても嬉しくない……ああ、あと、『すぶりをするそぶり』っていうラ

ジオネームも、『すぶり』と『そぶり』が、漢字で書いたら同じだっていう細かい洒落になっ

てるから」

「あ、でも、阿良々木くん、その番組、そんなわかりにくい葉書ばかり読まれてるわけじゃな

いんだよ。普通に面白い、こんな葉書もあったわ。さっきのと同じふつおたのコーナーだから

これも実話ね、ラジオネーム『林檎をむいて歩こう』さん。『先日、友達と二人でレンタルビ

デオ店に行きました。わたしは三年ほどまえに放映された某連続ドラマのDVDを借りようと

したのですが、全十三巻のそのドラマ、八巻が他の人に借りられていたので、七巻までしか借

りることができませんでした。最終回近くが面白いと聞くドラマだったので、とても残念でし

た。ないのは八巻だけで、九巻から十三巻まではちゃんと揃っているのに。「七並べで八を止

められている気分だよ!」と言うと、友達は言いました。「今頃、八巻を借りてる人はほくそ

笑んでるんだろうね」』。なんて、あはは、八巻を借りてる人の方は七並べみたいだなんて

思ってないって」

「確かにそれは面白い話だけど、ラジオの話はもういいんだよ!」

閑話休題。

とにかく。

猫に関する記憶を探って、その程度のことしか思い当たらなかったということは、やはり、

今回の件は、前回の残滓だと、そう考えるべきか。

べきだろう。

「じゃあ、羽川。次の質問だ」

「うん」

「その帽子」

僕は言った。

「脱いでくれるか?」

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「……それは――」

羽川の顔つきが変わる。

「それは、質問じゃないよ、阿良々木くん」

「そうだな」

「そうだよ」

「羽川様。帽子を、こちらでお預かりします」

「阿良々木くん」

「はい」

「怒るよ」

「怒れよ」

羽川の剣幕にひるまずに、僕は言う。

「怒りたきゃいくらでも怒ればいい。なんなら、嫌ってくれても構わないぜ。僕にとってはお

前との友情よりもお前に恩返しをすることの方がずっと大事だ」

「恩返しって……」

羽川の声が少し小さくなる。

僕の言葉に気まずさを感じているかのようだ。

「何のことを言ってるのよ」

「春休みのことを言ってるんだ」

「あれは――でも、あんなの、やっぱり……それこそ、阿良々木くんが、一人で勝手に、助

かっただけなんでしょう?」

「違う。それでも忍野はそういうかもしれないけれど、僕は、お前に助けられたと思ってい

る。お前は、命の恩人だ」

僕は言った。

やっと言えた、そんな感じだった。

そうだ。

ちゃんとお礼が言えるのは――僕の方だ。

「その恩が返し切れるなんて思ってない。だけど、お前のために何かさせて欲しいんだ。お前

のためにできることは、僕は全部やるんだよ。その結果だったら、怒られても嫌われても、我

慢できるさ」

「我慢ね」

羽川は――少しだけ、笑った。

いや、泣いたのかもしれない。

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わからなかった。

「生意気なこと言うじゃない」

「そうか?」

「阿良々木くんの癖に、生意気だぞ」

「……それはガキ大将の台詞だぜ?」

優等生の言うようなことじゃない。

そうね、と言って羽川は――

「笑わないでよ」

と。

帽子を脱いだ。

「……………………………………………………………………………………………………」

猫耳だった。

羽川の小さな頭から、可愛い猫耳が生えていた。

僕は、黙って、下唇を噛む。

血が滲むほどに。

……笑うな……。

シリアスに決めたばかりなんだ、絶対に笑うな……。もっともらしい綺麗ごとを言って相手

をその気にさせた挙句、いざ相手が乗ってくると大爆笑して笑いものにするという、漫画など

では定番のギャグがあるが、僕はそういうことだけはするまいと、堅く誓っているんだ……。

しかし、この猫耳、羽川の、きっちりと揃えられた前髪と、本当にあつらえたように、よく

似合っている。ゴールデンウィークのときにも思ったけれど、なんというか、猫耳をつけるた

めに生まれてきたような女だ……。

もっとも。

ゴールデンウィークの悪夢の際には、羽川のままで猫耳だったことはないから――この破壊

力は絶大だった。そうか、この場合、猫耳の毛色は、髪と同じ、黒になるんだな……。

だからと言って笑うなよ。

本気で嫌われるぞ。

構わないといいはしたものの、やっぱりできることなら、羽川からは嫌われたくはない。命

の恩人に、そうでなくとも善良な人間に嫌われるというのは、かなり凹む事実だ。

「も、もういい?」

恥ずかしそうにいう羽川。

頬を染めて、割とレアな表情だった。

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しかも猫耳!

「あ、ああ……うん。ありがとう」

「なんでお礼なのよ」

そう文句を言いながら、帽子をかぶり直す羽川。目深にかぶって

、僕の方を見ようともしな

い。神原の左腕を見せてもらったときや、千石の身体を見せてもらったときと、状況は似てい

るが……でも、羽川の猫耳は、そういうものとは次元が違った。

お礼を言いたくもなってしまう。

本当にありがとう。

「けど……うん、わかったよ。やっぱ、ゴールデンウィークの続きって感じだな。終わってな

かったっていうか……」

頭痛は、猫耳が生えてくる痛みだったんだな。

わかりやすいといえばわかりやすい。

親知らずが生えてくるようなものだ。

「ゴールデンウィークの続き……私が忘れている――こと、よね」

「忘れたまんまの方がいいよ」

「うん、そうなんだとは思う……けど、記憶の辻褄があわないっていうのは、なんていうか、

とても気持ちが悪いの。すっぽり抜け落ちてる、欠落感があって」

それは欠落感じゃなく。

喪失感――だと思う。

「まあ、言っちゃ何だけど、僕はちょっと安心したよ。それならそれで――対処のしようがあ

る。羽川の記憶にはなくとも、僕にとっちゃ、既に一度経験したことだからな。それを繰り返

せば、無事に解決する。今度はより念入りに、入念に――だ」

「そう――なんだ

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