第25章

な風に思われたら、戦

場ヶ原からどんな迫害を受けることになるのかと思うと、そう安易に、僕としては動くわけに

はいかなかった。結果――固まる。

「この間のこと」

そんな状況、位置関係で。

戦場ヶ原は平然とした風に言った。

「改めて、お礼を言わせてもらおうと思って」

「……ああ。いや、お礼だなんて、そんなの、別にいいよ。考えてみたら、僕、何の役にも

立ってないしな」

「そうね。ゴミの役にも立たなかったわ」

「…………」

意味は同じだけれど、より酷い表現だった。

というか酷い女だ。

「だったら、礼は忍野に言っとけよ。それだけでいいと思うぜ」

「忍野さんのことは、また別の話だわ。それに、忍野さんには、規定の料金を支払うことに

なっているしね。十万円だったかしら」

「ああ。バイトするんだっけ?」

ちょくせつ

めいりょう

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「ええ。とはいえ私の性格は労働には不向きなので、今はまだ、それについての対策を講じて

いる段階だけれどね」

「自覚があるのは自覚がないのよりはいいことだ」

「なんとか踏み倒せないものかしら……」

「そんな対策を講じていたのか」

「冗談よ。お金のことはちゃんとするわ。まあ、だから、忍野さんのことは、また別――とい

うこと。それで、私は、阿良々木くんには、忍野さんとは違う意味で、お礼を言いたいの」

「だったら、今聞かせてもらったってことで、もういいよ。いくら礼の言葉でも、あんまり何

度も言うと、中身がなくなってくもんだからさ」

「中身なんか最初からないわ」

「ないのかよ!」

「冗談です。中身はありました」

「冗談ばっかりだな、お前」

こちらとしては呆れるばかりだった。

こほん、と咳をしてみせる戦場ヶ原。

「ごめんなさいね。私って、なんだか、阿良々木くんから何かを言われると、ついつい、それ

を否定したり、それに逆らいたくなったりしちゃうのよ」

「…………」

謝りながらそんなことを言われても……。

あなたとは気が合いませんねって言われた気分だ。

「きっと、これは、あれよね。好きな子を苛めたいって思う、ちっちゃな子供みたいな心境な

のでしょうね」

「いや、弱い者を甚振りたいって思う、おっきな大人みたいな心境だと思うぞ……」

ん?

今僕、戦場ヶ原に好きな子って言われた?

あ、いや、言葉の綾か。

自分に笑顔を見せてくれる女の子が全員自分に惚れていると思う中学生みたいな気分になっ

ても大した意味はなさそうなので(スマイルはゼロ円)、僕は、話題を戻す。

「ま、でも実際、そんな恩に感じられるほどのことはしたとも思ってないし、忍野風に言うな

ら、『戦場ヶ原が一人で助かるだけ』なんだから、僕に対して、恩を感じるとか、そういうの

は、やめにしとこうぜってこと。これから仲良くやっていきにくくなるだろ」

「仲良く、ね」

せき

いじ

いたぶ

あや

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戦場ヶ原は、口調を全く変えずに言う。

「私――阿良々木くん。私は、阿良々木くんのこと、親しく思ってもいいのかしら?」

「そりゃ勿論」

お互い、抱えている問題を、披瀝し合った仲だ。他人とか、あるいはただのクラスメイトと

かで済ます段階では、もう、ないと思う。

「そう……そうね、お互い、弱みを握り合った仲だものね」

「え……? 僕達、そんな緊迫した関係なのか?」

ギスギスしてそう……。

「弱みとかそういうことじゃなくて、当たり前に親しく思ってくれりゃいいんだよ……そうい

うことじゃないわけだろ? そうしたら、僕も、同じようにするからさ」

「でも、阿良々木くんって、あまり友達を作るタイプの人間ではないわよね」

「去年まではそうだったよ。タイプというより、主義だったからな。ただ、春休みにちょっと

したパラダイムシフトがあったわけで……そういう戦場ヶ原は?」

「私は、前の月曜日までよ」

そう言う戦場ヶ原。

「もっと言うなら、阿良々木くんに出会うまで」

「………………」

なんだこいつ……。

ていうかなんだこの状況……。

まるでこれから僕が戦場ヶ原から告白されてしまいそうなこのシチュエーション……息苦し

いというか重苦しいというか、そう……心の準備が出来ていない、みたいな感じ。こんなこと

になるとわかっていたら、もっと服だって髪だってちゃんとして……。

じゃなくて!

ああ、告られたらどうしようとか、結構真面目に考え始めている自分自身が酷く恥ずかし

い! しかも、それについて考える際に、つい戦場ヶ原の胸に眼がいってしまうのはどういう

ことだ!? 僕はそんなつまらない人間だったのか!? 阿良々木暦は、女の子を外見(胸)で判断

するような、品性の下劣な人間だったのか……。

「どうしたの? 阿良々木くん」

「あ、いや……ごめんなさい」

「何故謝るの」

「自分の存在が罪に思えてきたんだ……」

「なるほど。罪な男というわけね」

ひれき

こく

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「………………」

いや。

またそれ、意味は同じでニュアンスが違うし。

「つまりね、阿良々木くん」

戦場ヶ原は言った。

「阿良々木くんが何と言おうと、私は、あなたに、お返しがしたいと思うのよ。そうでない

と、私はいつまでも、阿良々木くんに、引け目のようなものを感じてしまうと思うの。仲良く

やっていくというなら、それが終わって初めて、私達は、対等な友達同士になれると思うの」

「友達……」

友達。

なんだろう。

それはどう考えても恐らくは感動的な言葉のはずなのに、過度な期待をしていたために、気

落ちというか、なんだか、心のどこかでがっかりしてしまっている自分がいるような……。

いや、違う……。

決して、そういうわけでは……。

「どうしたの、阿良々木くん。私としてはそれなりに格好いいことを言ったつもりなのに、阿

良々木くんは、どうしてなのか失望したみたいな顔をしているわ」

「してないしてない。戦場ヶ原がそんな風に思っていてくれてることがわかって、フレンチカ

ンカンみたいに大は

しゃぎしている自分を必死で隠しているから、逆にそう見えるんだろう」

「そう」

納得していないみたいな顔で頷かれた。

下心のある男だと思われたかもしれなかった。

「まあいいわ。とにかく――そういうわけで、阿良々木くん。何か私にして欲しいことはない

かしら? 一つだけ、何でも言うことを聞いてあげるわ」

「……な、なんでも?」

「何でも」

「ああ……」

同級生の女の子から、何でも言うことを聞いてあげるって言われた……。

図らずもものすごい偉業を達成した気分だった。

………………。

でも絶対、こいつはわかってて言ってるよな。

「本当になんでもいいわよ。どんな願いでも一つだけ叶えてあげる。世界征服でも、永遠の命

かな

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でも、これから地球にやってくるサイヤ人を倒して欲しいでも」

「お前は神龍をも超える力を持っているというのか!?」

「当たり前よ」

肯定しやがった。

「あんな肝心なときに役に立たない上に最後には敵に回ってしまうよう

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