いけれど」
「……ちょっとした、ツーリングだよ」
自転車でだけどな、と付け加えた。
ながそで
はだか
むやみ
ひま
かいしょう
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それを聞いて、戦場ヶ原は「ふうん」と頷き、公園の入り口の方を、一回、振り向いた。そ
の方向には、そう、駐輪場がある。
「じゃあ、あの自転車、阿良々木くんのだったのね」
「ん? ああ」
「フレームは酸化鉄でコーティングしているのじゃないかってくらいに錆びていたし、チェー
ンも切れて外れていて、サドルと前輪が無くなっていたけれど、そう、あんなになっても自転
車って動くものなのね」
「それじゃねえ!」
それは放置自転車だ。
「そういうのが二台あった他に、もう一台、格好いい奴があっただろ! 赤い奴! それが僕
のだ!」
「ん……ああ。あのマウンテンバイク」
「そうそう」
「MTB」
「まあ……そうだ」
「MIB」
「それは違う」
「ふうん。あれ、阿良々木くんのだったんだ。でも、そうなるとおかしいわね。前に、私が後
ろに乗っけてもらった自転車とは随分造形が違うみたいだけれど」
「あれは通学用。プライベートでママチャリなんて乗れるわけねーだろ」
「なるほどね。阿良々木くん、高校生だもんね」
ふむふむと、頷く戦場ヶ原。
お前も高校生なのだが。
「高校生、マウンテンバイク」
「含むところのありそうな物言いだな……」
「高校生、マウンテンバイク。中学生、バタフライナイフ。小学生、スカートめくり」
「その悪意のある羅列はどういう意味だ!」
「助詞も形容詞もないのだから、悪意があるかどうかなんてわからないでしょう。勝手な推測
で女の子に向かって大声を出さないでよ、阿良々木くん。恫喝だって暴力の一つなのよ?」
それなら毒舌だって暴力の一つだろう。
なんて言っても、仕方ないのだろうけれど……。
「じゃあ、助詞と形容詞を足してみろよ」
さ
どうかつ
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「高校生『の』マウンテンバイク『は』、中学生『の』バタフライナイフ『や』、小学生
『の』スカートめくり『より』、『有り得ない』」
「フォローする気がないのかよ!」
「やあねえ阿良々木くん。そうじゃなくて、ここでの突っ込みは『有り得ない』は形容詞じゃ
なくて動詞プラス打消しの助動詞だ、でしょう」
「そんなもん咄嗟に言われてわかるか!」
さすがは学年トップクラスの成績保持者。
いや、わからないのは僕だけなのかな……。
国語は苦手だ。
「お前な、僕はいいよ。僕はそこまでマウンテンバイクが好きってわけでもないし、それに、
僕はもう今更だから、お前の暴言については、ある程度我慢がきくからさ。我慢っていうか、
融通っていうかがな。でも、マウンテンバイクに乗ってる高校生なんて、世界中、五万といる
ぞ? お前はそいつらを、全員まとめて敵に回すのか?」
「とても最高ね、マウンテンバイク。高校生ならば誰もが憧れる逸品だわ」
一瞬で手のひらを返す戦場ヶ原ひたぎ。
意外と保身的な奴だった。
「その最高さ加減が阿良々木くんにあまりにも似合わないものだから、ついつい、心にもない
ことを言ってしまったわ」
「責任転嫁までしやがった……」
「細かいことをごちゃごちゃとうるさいわね。そんなに殺されたいのなら、いつでも半殺しに
してあげるわよ」
「残酷な仕打ちだ!」
「阿良々木くん、この辺、よく来るの?」
「平気で話題を戻すよな、お前は。いや、多分、初めてだと思う。適当に自転車走らせていた
ら、ちょっと公園があったんで、なんとなく、休んでいただけだよ」
正直言って、もっと遠くまで――いっそ沖縄とかくらいまで来たつもりでいたけれど、こん
な風にたまたま戦場ヶ原に出会ってしまったということは、当たり前だけれど、自転車くらい
じゃ、住んでいる町からは出られもしないということだろう。それは正に、牧場のごとく。
あーあ。
免許でも取ろうかなあ。
でもやっぱ、卒業してからだよなあ。
「戦場ヶ原は? 慣らしって言ってたけれど、なんだ、じゃあ、リハビリの散歩ってわけ
ゆうずう
てんか
おきなわ
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か?」
「慣らしというのは服の慣らしよ。阿良々木くんは男の子だからそういうの、しないのかし
ら? 靴の慣らしくらいはするでしょう。まあ、平たく言えば散歩というわけね」
「ふうん」
「この辺りは、昔、私の縄張りだったのよ」
「………………」
縄張りって……。
「ああ、そういや、お前、二年生のときに、引っ越ししているんだったっけ。何、それまで、
この辺りに住んでいたってこと?」
「まあ、そういうこと」
そういうことらしかった。
なるほど――ということは、単に散歩とか、服の慣らしとか言うよりも、本質的には、自身
の問題が解決したゆえに、昔を懐かしんで――ということもあるのだろう。なかなか人間らし
い行動を取るじゃないか、こいつも。
「久し振りだけど、この辺りは――」
「どうした。全然、変わらないってか?」
「いえ、逆。すっかり変わっちゃった」
すぐに答えた。
既にある程度、散策は終わっているらしい。
「別に、そんなことでセンチメンタルな気持ちになったりはしないけれど――でも、自分が昔
住んでいた場所が、変わっていくというのは、どことなく、モチベーションが削がれる感じが
するわね」
「仕方ないことじゃないのか?」
僕は生まれたときからずっと同じ場所で育っているので、戦場ヶ原が言うような感覚は、正
直、全くわからないけれど。田舎と呼べるような場所も、僕にはないし――
「そうね。仕方のないことだわ」
戦場ヶ原は、意外なことに、ここではろくな反論もせずに、そう言った。この女が何か意見
めいたことを言われて反論しないなんて、珍しい。あるいは、僕とこの話題を続けても、何ら
得るところはないと思ったのかもしれない。
「ね。阿良々木くん。そういうことなら、隣、構わないかしら?」
「隣?」
「あなたとお話がしたいわ」
なわば
なつ
そ
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「…………」
こういう物言いは、本当に直截的なんだよな。
言いたいことややりたいことは簡単明瞭。
まっすぐ、ど真ん中。
「いいよ。四人掛けのベンチを一人で占領していることに、若干の心苦しさを感じていたとこ
ろだったんだ」
「そう。では遠慮なく」
戦場ヶ原はそう言って、僕の隣に座った。
肩が触れ合うくらいの隣に座った。
「……………………」
え……なんでこいつ、こんな四人掛けのベンチで、まるで二人掛けみたいな位置に座るんだ
……? 近過ぎませんか、戦場ヶ原さん。ぎりぎりの位置で、まあかろうじて身体同士は触れ
合ってはいないものの、ちょっとでも身じろぎすればというものすごく絶妙なバランスで、ク
ラスメイト同士としては、いや友達同士としても、ちょっとこれはちょっとという感じだ。か
といって、これでこっちが距離を取るように移動したら、まるで僕が戦場ヶ原を避けているみ
たいな印象になりかねない。たとえそんなつもりはなくとも、仮にそん