第12章

「これと――これかな。あ、その本はあんまりためにならないかも。書いてくださっている先

生には申し訳ないんだけれども、結局、暗記を勧めているだけになってるから。効率を求める

なら、そっちの本の方がいいと思う」

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とうとつ

すす

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羽川翼は――そう言って、次々と、本棚から参考書を引き出し、僕に手渡して行く。一冊、

二冊、三冊、四冊、これで五冊。

直江津高校からそう遠くない大型書店――である。

六月十二日、月曜日。

その放課後。

いよいよ今週末の金曜土曜にと迫った文化祭の打ち合わせと準備を終えた、クラス委員長の

羽川と、副委員長の僕は、その帰り道、一緒に本屋さんに寄った。というか、僕が羽川に頼ん

で、一緒に来てもらった格好だ。

三つ編み、眼鏡。

委員長の中の委員長。

究極の優等生、羽川翼。

「悪い、羽川……そろそろ予算枠を超えそうだ」

「へ? 予算枠って?」

「一万円。家に帰れば、もうちょっとあるんだけど、財布の中には、それだけだ」

「あー。参考書って割と高いからね。内容を鑑みれば、しょうがないことではあるけれど。

じゃ、参考書の良し悪しの他に、費用対効果も考えようか。この本は返却して、こっちを、

と」

羽川翼――

彼女もまた、怪異にかかわった者である。しかし彼女の場合は、僕や神原、あるいは戦場ヶ

原とはまた別枠で数えるべきかもしれない――何故なら、彼女は怪異とかかわった、その記憶

自体を、喪失してしまっているからだ。僕の春休みの地獄に匹敵する、ゴールデンウィークの

悪夢を、まるっきり、忘れてしまっているのだ。

けれど僕は憶えている。

僕は鬼。

神原は猿。

戦場ヶ原は蟹。

そして羽川は――猫。

「でも」

羽川は唐突に言った。

「私は、少し、嬉しいな」

「……何が?」

「阿良々木くんが、参考書選びを手伝って欲しいとかさ、そんなこと、言い出すなんて。阿

つばさ

せま

かんが

そうしつ ひってき

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良々木くんが真面目に勉強する気になったんだとすれば、私の努力も無駄じゃなかったんだな

あって」

「………………」

いや。

お前の努力はあんまり関係ないんだが。

こいつ、僕のことを不良と勘違いしていて、更生させるために無理矢理僕を副委員長にした

ところがあるからな……。

的外れというか、ほとんど暴走だ。

「うーん、真面目に勉強とか、そういうんじゃなくってな……僕もそろそろ進路のことを視野

に入れようかと思って」

「進路?」

「というか、進学と言うか……この間、戦場ヶ原とそんな話をしてさ。それから、あいつの志

望校を聞いたんだが……」

「ああ。戦場ヶ原さんは確か、地元の国立でしょ? 推薦で行くはずよね」

「……お前は何でも知ってるな」

「何でもは知らないわよ。知ってることだけ」

いつも通りのやり取り。

というか、戦場ヶ原のことに関しては、羽川は僕よりも先んじて、ずっと気に掛けていたの

だから、委員長として、それくらいは知っていても当然なのかもしれない。そう言えば、戦

場ヶ原の方も、珍しく、羽川のような度を過ぎたお節介のことを、そこまで過度に嫌ってはい

ないようだ。多分羽川なら、現在計画中の、戦場ヶ原の誕生日パーティーに招待しても、それ

ほど激しい怒りを買うことはないはずである。

しかし、誕生日パーティーを開くことによって、怒られることを考慮しなければならない恋

人って……。

「何? それじゃ、阿良々木くん、ひょっとして、戦場ヶ原さんと同じ大学を目指すってこ

と?」

「まだあいつには言うなよ。変な期待させたくねえし」

照れ隠し――というわけでもないが、なんとなく、手元の参考書の一冊を、ぱらぱらとめく

る素振りをする僕。

「というか、ものすごく冷たいことを言われそうだ」

「冷たいことなんて……彼氏彼女なんでしょ?」

「まあ、そうなんだが。でもあいつの場合、親しき仲にも冷気ありって感じなんだよな……」

すいせん

こうりょ

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「んん? ああ、なるほど。親しき仲にも礼儀ありの礼儀と、冷たい空気の冷気を掛けた駄洒

落なのね? あはは、阿良々木くん、面白い」

「わかりやすく説明するな!」

あと駄洒落って言うな。

口に出して面白いとか言うな。

「あはは、阿良々木くん、きっと『冷たいことを言われそうだ』って言った段階から、もうそ

の表現を考えてたんでしょ? そう言えば私が『彼氏彼女なんでしょ?』って返すことは読め

るもんね。もう、いちいち緻密なんだから」

「話の組み立てを解体しないでくれ!」

なんかもう丸裸だ。

僕は話を戻す。

「別に具体的な目標がどうこうってわけでもないんだが、この間の実力テスト、僕、思ったよ

りも点、取れてな。赤点じゃなきゃいいくらいにしか考えてなかったのに……そりゃ、お前や

戦場ヶ原に較べりゃ全然なんだけど、まあ、久々に真面目に勉強したから、それなりに」

「戦場ヶ原さんにマンツーマンで勉強見てもらったんだっけ?」

「そう」

ちなみに、その戦場ヶ原は、僕のような落ちこぼれの勉強を見ながら、学年七位の総合得点

を、飄々と獲得していた。見事というか天晴れというか、あそこまでいけば、最早感心するし

かない。

もう一つちなみに、総合得点一位は羽川翼だ。

言うまでもなく。

全教科一位を達成している。

ほとんど満点だったような。

さておいて、僕は数学以外は順位が貼り出されるような得点ではなかったが、それでも、こ

れまでの実力試験から見れば飛躍的に、その得点は伸びていた。

それは、ちょっと、夢を見てしまうほどに。

今が六月。

これから半年、みっちりと勉強すれば――

とか、そんな風に思わせるくらいには。

「なんか、戦場ヶ原に勉強見てもらってさ、久し振りに、勉強の仕方がわかったっていうか…

…中学生のときの感覚を思い出したよ。僕、入学したての一年生の頃に、そういうの、どっか

で諦めちまってたからな」

だじゃ

ちみつ

くら

ひょうひょう あっぱ

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「ふうん……いいことだと思うよ。彼女と同じ大学に行きたいからなんて、ちょっと動機が不

純な気もするけど、学問の扉は常に開いているからね。うん、そういうことなら、私も全面的

に協力させてもらうわ」

「………………」

戦場ヶ原の教育も怖いけど、お前の教育も怖いんだよな……。

言わないけど。

それに、どう考えても、僕の大学合格に、羽川翼の協力は不可欠だろう。

「そんなわけで、うまく目処がつくようだったら、夏休みから予備校に通おうかと思ってるん

だが、どっかいいところ知ってるか?」

「うーん。それはわからない。私、塾とか通ったことないし」

「そうなのか……」

この天才肌め

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