第14章

べきところなんじゃない?」

「うーん」

なつ

いかん

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「折角阿良々木くんが取り持ったヴァルハラコンビが、阿良々木くんが原因で再解散しちゃっ

てもつまらないでしょ?」

「まあ、そりゃそうだ」

意志薄弱というか。

弱くて薄いんだよな、僕が。

「まあ、そういう意味じゃ、神原さんも男慣れしてなさそうだもんね。変な言い方になっちゃ

うけど、ずっとスター扱いだったから、むしろ逆に、そういう機会はなかったのかも」

「だろうな」

百合だし。

戦場ヶ原ラブだし。

それも秘密。

「阿良々木くんも、そういうコミュニケーションは苦手そうだもんね。でも、苦手だからって

許されることと許されないことがあるよ」

「でもな――。僕、戦場ヶ原から、神原の面倒をちゃんと見るように、言われてるんだよな。

『私の後輩に無礼があったら承知しないわよ』とか、なんとか。どんな力関係なんだよ、みた

いな。三角関係だとしたらとんでもねえ二等辺三角形だぜ。神原の方も、僕の世話になるよ

う、戦場ヶ原から言われてるみたいだし」

そうだ。

この場合、わからないのは戦場ヶ原の心理だ。

あいつは一体、何を考えているんだろう?

「それは、そうね。こんな感じなんじゃない?」

言って。

羽川は、そっと、その両手を僕の頭に伸ばしてきた。それぞれの手で、左右から僕の頭を触

り、固定する。僕は両手に参考書の山を抱えるようにしているので、その手を振り払うことが

できない。

「え? え、何?」

「はい、どうぞ」

羽川は両手で僕の頭の角度を調節し、僕を見上げるようにした自分の顔と、ぴったり正面

に、向かい合うようにする。眼が合う。と思ったが、羽川は目を閉じていた。眼鏡の奥の眼は

閉じられて、睫毛が震えているようだった。同じように閉じられている唇が、自然、僕に何か

言いたげで――

「え? え? え?」

まつげ くちびる

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な、何、このシチュエーション?

というか、この流れはなんだ?

いや、羽川は、委員長で、僕にとっては忍野と同じくらい、いや、間違いなくそれ以上に恩

人であって――で、でもなんか、しなきゃいけないのか?

どうぞとか言ってるし……。

ちょっと眼鏡が邪魔っけだけど……、いや。

むしろこの状況で、何もしない方が……!

「……って感じかな」

そこで、ぱっと。

羽川は、手を離した。

悪戯っぽく、笑顔を浮かべている。

「あと一秒って感じだった? 阿良々木くん」

「い、いや……何言ってんだよ」

我ながら、声が明らかに裏返っている。

何言ってんだよは自分だった。

「だから。阿良々木くん、弱くて薄いのよね」

「………………」

他人から言われると響くな、その言葉。

しかも言い返せない。

あと一秒だったとは思わないが、心に迷いが生じてしまったことは否定しようのない事実

だ。

「阿良々木くんって誰にでも優しいじゃない? そういうのって、戦場ヶ原さんから見たら、

結構不安だと思うのよね。戦場ヶ原さんには阿良々木くんだけだけど――極論すれば、阿良々

木くんは、誰でもいいって感じなんだもん」

「……不安って」

そんな情緒溢れる奴かな、あいつ。

でもまあ、あいつのそういう部分を解消したくて、僕は、戦場ヶ原と神原の間を取り持った

というところは、確かにある。とすると、戦場ヶ原の方も、僕のそういうところを解消したく

て――か? いや、それだとわけがわからない。理由になっているとはとても言えない。

「状況に流され易いし、人を傷つけたくない。まあ、優しいっていうのは、普通、いいことな

んだけど、それが相手のためにならないこともあるしね。戦場ヶ原さんとしては、あんまり、

阿良々木くんに、神原さんと仲良くして欲しくないんじゃないかな? けど、仲良くしないで

いたずら

ひび

じょうちょ

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なんて言えないし、むしろ逆のことを言っちゃう――違うか。仲良くしてもいいんだけど、む

しろ仲良くして欲しいんだけど、けじめはちゃんとつけて欲しいというか……戦場ヶ原さんと

神原さんとを較べた上で、ちゃんと自分を選び取って欲しいって感じなのかな」

「なんだそりゃ。わけわかんねえぞ」

「戦場ヶ原さんもジレンマじゃないのかな? 阿良々木くんは大事な彼氏だし、神原さんは大

事な後輩だし」

「ううん」

その上、神原は百合だしな。

それを戦場ヶ原は、もう知っているし。

そう考えれば、とても複雑な人間関係だ。

「まあ、戦場ヶ原さん、ツンデレだから」

会話を締めるような調子で、羽川は言った。

「その行動原理は、一辺倒で理解しようとしちゃいけないと思うよ。常に裏を読まなくちゃ。

阿良々木くんも戦場ヶ原さんが大事なら、ちょっとした誘惑で揺らいじゃ駄目だと思うな。誰

にでも優しいって、やっぱりちょっと無責任だからね」

「ああ……身に染みてわかったよ」

あの実践演習は効いた。

自分の薄弱さを思い知った気がする。

……でも、会話の締めが『ツンデレだから』でいいのだろうかとは思ってしまう……ってい

うか、羽川翼、ツンデレって言葉の意味、ちゃんとわかるんだ……。

つくづく、何でも知ってる奴だ。

いい加減、羽川には、戦場ヶ原が教室で被っている猫の仮面の下が、見えてきているという

ことなのかもしれない。

まあ、猫は羽川の方が専門だしな。

「そう言えば、羽川はどこに進学するんだ? やっぱ東京か? それとも、全国模試で一位を

取れるくらいの奴は、海外の大学とか行くのか?」

「え? 私、進学しないよ?」

「……は?」

なんだその爆弾発言。

素でびっくりした。

「進学……しないの?」

「うん」

くら

かぶ

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「お金の問題か? でも、お前なら

、それこそ推薦くらい……」

ドラフト一位の取り合いだろうに。

給料をもらいながら大学に通ってもおかしくない。

「そういうんじゃなくって。別に私、大学で勉強することとか、ないし。……そうだね、阿

良々木くんにはもう言っておいてもいいかな。私、卒業したら、ちょっと旅に出るの」

「た、旅?」

「二年くらいかけて、世界中を見てこようかなって。今見ておかないとなくなっちゃいそうな

世界遺産って、いっぱいあるし。私、知識ばっかりに依ってるところがあるからね、色んな経

験積んだ方がいいと思ってさ。もしも大学に行くのなら、それから行っても遅くはないしね」

「…………」

思いつきで夢見がちなことを言い出した。

のでは、ないんだよな……。

受験戦争からの現実逃避をしなければならないような成績では、羽川はない。明日入試だと

言われても十分に対応できるくらいの実力を、平然と備えている。今この瞬間に試験開始とい

われたって、それがどこの大学であれ、楽々と悠々と合格できるはずだ。そんな羽川のことだ

から、多分、その旅のプランというのも、もう相当に、変更が不可能なほどに、練り込まれて

いることだろう……。

「学校の先生とかには、まだ秘密にしておいてね。言ったら、きっ

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