第58章

に、果

たして願書が書けるのかどうか」

「そんな地点から心配されてるのか!? 恐るべし、少女の老婆心!」

「願書さえ書ければ、後は当日の体調管理に気をつけさえすれば、阿良々木さんでも受験くら

いはできますよ」

「違う! 僕は受験さえできればそれで満足なんじゃない、その後ちゃんと合格しなければな

らないんだ!」

「受験勉強ですか……まあ、わたし、らしくもなく苦言を呈してしまいましたが、阿良々木さ

んなら大丈夫でしょう。阿良々木さんはやればできる人ですからね」

「おお。そう言ってくれるか」

「勿論です。受験を決意した段階で、もう阿良々木さんは受かっているようなものです」

「なんと、そこまで言ってくれるのか」

「まだ言い足りないくらいですね。受かっているというより、もう大学を卒業していると言っ

ても過言ではないかもしれません」

「おいおい、受験の決意をしただけでそれは言い過ぎだろう、八九寺」

「いえ、わたしには学士号を取った阿良々木さんの姿がもうはっきりとこの眼に見えていま

す。そうです、敬意を込めて、阿良々木さんのことを、これからは学士号と、肩書きで呼ばせ

ていただきます」

「まあまあ、呼びたいように呼べばいいさ。僕がそうさせてしまうんだ、それを批難すること

はできない」

「よりアカデミックに、英語で呼びましょう」

「英語で呼ぶとどうなるんだ?」

「バカロリート」

「うるせえよ! そして振りも長いよ!」

さすがに待ちくたびれたわ!

途中でオチがないのかと疑ったくらいだ!

「馬鹿とロリで、バカロリート……正に阿良々木さんのためにある言葉です」

ろうばしん

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「僕のためにある言葉なんてねえよ! 馬鹿は認めてもいいがロリは認めん! 僕は日々健全

に生きているんだよ!」

「そういう穿った視点で見てみれば、最後の『リート』という部分も、どことなく『ニート』

を連想させますよね」

「やめろ! これから先学士号という言葉をおいそれと使いにくくなるようなことを言うのを

今すぐやめろ!」

「やればできるなんて、聞こえのいい言葉に酔っていてはいけませんよ、阿良々木さん。その

言葉を言うのは、やらない人だけです」

八九寺は真面目ぶって言う。

勉強をしたことがない癖に……。

「ったく、ずけずけと言いたいこといいやがって。お前は本当に生意気なガキだな、お仕置き

してやりたくなってくるよ」

「お前は本当に生意気なおっぱいだな、お仕置きしてやりたくなってくるよ? 阿良々木さん

は時たまとんでもなくいやらしいことを仰いますね」

「言ってねえよ!」

「ガキをおっぱいと置き換えるだけでここまでいやらしい台詞になるとは驚きです」

「メインの単語をおっぱいと置き換えていやらしくならない台詞なんかねえよ!」

何の会話だ。

この辺は勢いだけで喋っている気がする。

「でもまあ、確かにお前の言う通りだ。ちゃんと腹をくくらないとな」

「ええ。ついでに首もくくってください」

「やだよ! まあ、そうは言っても、その辺は僕の優秀な家庭教師陣に任せておけば心配ない

だろ。あいつらは、僕にサボることなんて許さないぜ。嫌でも毎日、勉強することになるさ。

はは、学年一位と学年七位がついているからな、はっきり言って無敵だぜ」

「プラスチックな考え方ですねえ」

「…………」

プラスチックに『前向き』的な意味はない。

「しかし阿良々木さん、いかにその名だたるお二方と言えど、学年最下位を相手取るとなる

と、一筋縄では……」

「さすがに最下位なんか取ったことねえよ! それに今回はかなりいい順位だったんだって!

僕の話を聞いてろよお前は!」

「自慢話を聞けと言われても困りますね。阿良々木さんの話で面白いのは、不幸自慢だけで

うが

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す。その辺りをもっと掘り下げてください」

「なんで僕がそんな自分苛めみたいなことをしなくちゃならないんだよ!」

「では、不肖ながらこのわたし、八九寺真宵が代弁しましょう。阿良々木さんの不幸自慢シ

リーズ。『鴨が葱を背負ってやってきた! でも阿良々木さんは葱が嫌いでした!』」

「僕の不幸をでっちあげるな! 葱は好きだよ、栄養があるもん! 風邪引いたとき喉に巻い

たりするもん!」

「一見幸せなようだけれど、よく考えてみれば実は不幸というのが、阿良々木さんの売りで

す」

「ねえよそんな設定! 今後行動しづらくなるような、中途半端に変な設定を付け加える

な!」

「阿良々木さんの不幸自慢シリーズパート2」

「パート2まであるのか!? パート1が全米ナンバーワンヒットでも記録したのか!?」

「『阿良々木さんは夜中に小腹が空いたので、カップラーメンを食べることにしました。けれ

どそのカップラーメン、インスタント食品の癖に作り方が意外と難しい!』」

「ち……畜生! 否定したいところだが、残念ながら何回かあるな、そういう経験! パート

2の方が名作とは、これは稀有な例だ!」

「阿良々木暦は永久に仏滅です」

「何もかもが嫌になるフレーズだ!」

「しかし、学年一位と学年七位ですか」

と、八九寺は一旦話題をそこで戻す。

「羽川さん……は、この間、わたしもお会いした、あの三つ編みの方ですよね」

「ああ……そういや、お前は、戦場ヶ原のことも羽川のことも、知ってるんだよな」

「そして――戦場ヶ原さんの方が、阿良々木さんの彼女さん」

「だ」

「ふうむ」

腕を組んで、難しい顔をする八九寺。

考えごとをしているようだが、似合わない。

「なんだよ。それがどうかしたか?」

「いや、普通、あの二人だったら、羽川さんの方を選ぶんじゃないかと思いまして。どうして

阿良々木さんは羽川さんじゃなくて戦場ヶ原さんとお付き合いなされているのか、ふと、不思

議に思ってしまいました」

「どうしてって……」

ねぎ

のど

けう

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そんなことを訊かれても。

なんだその質問。

「お二方とも別嬪さんだとは思いますが、性格が、月と鼈でしょう。わたしの見たところ、羽

川さんは優しいお姉さんでしたが――戦場ヶ原さんは、そう……悪意の塊です」

「戦場ヶ原も、やっぱりお前に言われたくはないとは思うけれどな」

まあ、八九寺は戦場ヶ原から割と酷い言葉を浴びせられているから、それはわからなくもな

い。それに較べれば、羽川は八九寺に優しかったからな。

優しくて――厳しかった。

ちゃんと、お姉さんしていた。

子供から見れば、不思議かもしれない。

「けれど、羽川は僕にとってそういう対象じゃないからな――あいつは恩人なんだよ。詳しく

は言えないけれど。羽川の方だって、僕なんか願い下げだろうし。それに、そもそも僕はあの

性格を含めて、戦場ヶ原のことが」

うう。

さすがに口にするのは恥ずかしいな。

僕は文末を濁した。

八九寺はそこを突っ込んでくるような意地悪なことはせずに、「そうですか」と、頷いた。

「皮肉な話ですね」

「皮肉って、何のことだよ」

「分かりませんか? ではひき肉な話ですねと言い換えましょう」

「益々わからなくな

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