第82章

とでも

あるよ……一匹ごとに、いちいち格好悪くおたおたしちゃってよ……情けない限りだ。忍野み

たいにゃ、いかねえさ」

忍野メメ。

専門家――妖怪変化のオーソリティ。

考えてみれば、不思議だ。あいつはどうやって、あの道に足を踏み入れたのだろう――僕は

あいつの背景を、ほとんど知らない。そう言えば、神道系の大学に通っていたとか、そういう

話だっけ……けれどそれも、どこまで鵜呑みにしていい経歴なのか、わかったものじゃない。

あいつは割と、その場のノリや思いつきで嘘をついてしまう人間だ。

「いや、俺が言いたいのはそういうことじゃにゃくてだにゃ――たとえば人間、お前、あの吸

血鬼が失踪した理由とか、想像つくのかにゃ?」

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「……全然」

「だろう? つまり、お前はその程度にしか、俺らのことをわかってにゃかったってことだ

にゃ。……それこそ、多分、あのアロハには、おおよその察しはついてると思うのにゃん。あ

いつは――弁えているからにゃ」

「弁えて――」

「分を、弁えて、にゃ」

「………………」

下手に手を出すと――火傷する。

そういうことなのだろうか。

僕の場合、手どころか、首を出したのだから、それなら本当に始末に負えないということに

なる。波に攫われるままに右往左往しているだけで――慣れたなどと、言えるわけもない。

まして――忍が相手となれば。

伝説の吸血鬼――貴族の血統。

「お前――忍野から、僕と忍のことを聞いたのか? 僕と忍の関係を、ちゃんと理解して、そ

ういうことを言っているのか?」

「そこまでは聞いていにゃいにゃ――聞いたかもしれにゃいけれど、もう忘れちゃったにゃ。

少にゃくとも理解はしていにゃいにゃん」

「適当だな、おい」

「適当でも、概ねわかるにゃ――おっと、『おおむね』と言ってもそれはご主人のおっぱいの

ことじゃにゃいんだぞ!」

「…………」

知性の欠片も感じさせないギャグだ……。

エロいっていうか下品なだけだ。

「怪異のことは怪異が一番よくわかる――にゃんったって、俺らは同じだからにゃ」

「同じ……」

怪異としての種類は、大分違うと思うけれど。

人外ということでは同じ――否、そうでもない。

「怪異として――同じ」

「難しいことを言ってるんじゃにゃいにゃ――俺はどうせ、難しいことは言えにゃいしにゃ

ん。いいか、人間――そもそも、その怪異って言葉が、全てを表しているんにゃよ」

ブラック羽川は言う。

「怪異――怪しくて異にゃるもの、にゃ。人間とは違うもの――だからこそ、俺らは慣れられ

? ?

かけら

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てしまっちゃあおしまいだにゃ。そうにゃってしまえば、怪しくもにゃいし異にゃってもい

にゃい。俺らは、信じられ、怖れられ、怖がられ、疎まれ、奉られ、敬われ、嫌われ、忌ま

れ、願われにゃくてはにゃらない――だからこそ存在しうるんにゃ」

「………………」

「慣れられるだにゃんて――とんでもにゃい」

友達感覚で接しられたら、いい迷惑にゃ――と、ブラック羽川はまとめた。

なんだか、釘を刺されたような気分だ。しかし、言われてみればその通り……僕自身が半分

以上、怪異そのものへと変貌していたこともあって、その辺りの境界が曖昧になっていたかも

しれない。過剰に意識することも問題だが――まるっきり意識しないことも、また問題なの

だ。

忍を。

ただの子供として、扱っていたのではないか?

僕は――いつの間にか。

『人』とは称さない。

けれど――そう思っていたんじゃないのか?

「え……でも、ちょっと待てよ、お前……ひょっとしてだけど、だから、か?」

「にゃ?」

「僕が忍を、そういう風に認識してしまったから――怪異としての忍が姿を消してしまったと

いうことなのか?」

吸血鬼。

しかし――吸血鬼もどき。

それは、アイデンティティに関する問いかけだ。

奇しくも忍野は言っていた、自分探しの旅と。

今の忍には――自分が認識できないのか?

自分で自分が――わからない。

「そうかもしれにゃいし、そうじゃにゃいかもしれにゃい。そんな深いところまではわから

にゃいにゃ――俺らは同じだけれど、また別のものでもあるからにゃ。ただ、人間、これだけ

は憶えておいた方がいいにゃ……にゃんだっけ?」

「お前が忘れてんじゃねえかよ」

「そうそう、思い出したにゃん。人間。俺らは当たり前のようにそこにいるものだけれど――

いることが当たり前だと思われた瞬間に、ただの現実とにゃってしまうということにゃ」

鬼は――ただの血液異常に。

たてまつ うやま

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猫は――ただの多重人格に。

蟹は――ただの病気に。

蝸牛は――ただの迷子に。

猿は――ただの通り魔に。

蛇は――ただの疼痛に。

怪異は――ただの現実になる。

「結局のところ、科学万能の世の中に、怪異の入り込む余地はないって、ああいうつまらない

言い方をすることになってしまうってことか?」

「違うにゃ。それまでの形じゃいられにゃいというだけで――俺らはいつでもどこにでもいる

にゃん。お前達、人間がいる限りにゃ」

「そうやって――人間と共に歩んできたか」

「そういうことにゃ」

そういうことらしい。

障り猫――だ。

「しかしそれにしても――全然匂わにゃいにゃ」

「ん? ああ、忍の匂いな……痕跡もないのか?」

「特徴的にゃ匂いだから、あったらすぐにわかるはずにゃんだけど……にゃあ人間、本当にあ

の吸血鬼は、外に出たのか?」

「うん……それは間違いないと思う。少なくとも一回は、目撃されてるからな」

「そうか。外に出た振りをして、あの廃墟の中に潜んでいるという線は、にゃいのか……」

「お前にしちゃ頭を使ったな……その発想はなかった」

「一旦外に出たけれど、またあの建物に戻ったという線は? あそこはあの吸血鬼の匂いが充

満しているから、まぎれることが可能だにゃ」

「さすがにそれなら、忍野が気付くはずなんだが……」

まぎれる――か。

……ん、今、何か、思いつきそうになったが……なんだっけ? わからない……おいおい、

これじゃあ、この化け猫のことを、とやかく言えないじゃないか。本当に、どちらがより馬鹿

かという勝負になってしまう。

猫並みの知能か、僕は。

えーっと。

「ああ、そうだ――じゃあ、一度、忍が目撃された地点に、先に行ってみようか。コースは外

れちゃうけれど、ミスタードーナツに……そこから、忍の匂いを追えばいい」

とうつう

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「うーん。匂いを追うって感じじゃにゃいんだよに

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