んでも訊いてもらって構わないぞ」
「ああ、受け攻めの話は後回しだ」
「受け攻めの話もあるのかよ!」
「あとはパンツの話と露出狂の話がある」
「蒸し返すな!」
「正直、エッチな話以外はしたくない」
「そんなキャラが存在してたまるか! 訊きたいことをさっさと訊け!」
「今までの話の感触からすると……どうも阿良々木先輩は、戦場ヶ原先輩に、私のことを全く
話していないみたいなのだが」
「はあ? いや、話してるよ。それで、お前と戦場ヶ原が、ヴァルハラコンビだったことを、
僕は知ったんだから」
正確には、ヴァルハラコンビという単語自体は、羽川から聞いたものなのだけれど、戦場ヶ
きべん
と つくろ
む
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原本人に確認を取らなければ、戦場ヶ原ひたぎと神原駿河の関係性というものは、僕にはわか
らなかった。推測はできても、推測の域は出なかった。羽川に聞こうとも思わなかっただろ
う。
「そうではなく――私の左手のことだ。私の左手が、阿良々木先輩を襲ったということを…
…」
「ああ、そっちのことか。うん、それは話す余裕が、まだなくて……昨夜はそれどころじゃな
かったし、それに、真相もわかってなかったし、お前の左手がそんなことになってるってこと
も、知らなかったし。そもそもお前が犯人だってことに対する確信すらも、全然なかったわけ
だしな。山勘もいいところだった。あれについては、今のところ、自転車で電柱にぶつかった
ということになっている」
「しかしあそこまで周辺被害がでたのに、それで大丈夫なのだろうか?」
「そこは元吸血鬼の身体、警察や病院はご法度でな。表沙汰になると僕も困るんだよ。勿論、
お前のこと、戦場ヶ原に、いつまでも秘密にしておくってわけにはいかないだろうけどさ……
でも、それは、僕が言うよりも、神原が言うべきことだろうと思ったから」
「私が」
「優しいわけでも、いい人なわけでもないんだよ。ただまあ、色々、思惑が――」
姑息な計算が。
腹黒い、未練が。
僕には、絶対に、できないことを――
「……ん。おっと」
三階と四階との間の踊り場に、忍がいた。
忍野忍。
外見年齢八歳くらいの、透き通るように肌の白い、ヘルメットにゴーグルの、金髪の少女―
―踊り場に、直接腰をつけて、脚を折りたたむように、体育座りをしている。金髪だからそう
は見えないけれど、佇まいとしてはさながら座敷童子のようだった。
思わず、声を出して驚いてしまった。
忍は、じいっと、階段を昇ってきた僕と神原を、きつく睨むようにしている。恨めしそう
な、厳めしそうな、物言いたげな、物足りなげな、そんな複雑な色の眼で。
「…………」
無視。
僕は、眼を逸らすように、無視し、黙殺するように、忍を迂回するようにして、そのまま、
四階に、向かう。それ以外の対応を思いつかなかった。……しかし、どうしてこんな、中途半
いき
はっと おもてざた
たたず わらし
いか
うかい
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端な踊り場なんかにいるんだ? あいつ。忍野と喧嘩でもしたのだろうか……。
「な、なあ、阿良々木先輩。なんだ? あの子」
四階に辿り着いたところで、やや冷静さを欠いた、上っ調子な声で神原は言った。まあ、何
の説明もなしにあんな少女が、こんな廃墟の中で体育座りをしているのを見たら、気に留める
なという方が、無茶だろうけれど……それでも、神原は今、身体の一部が怪異と化している。
ひょっとすると、忍から、感じ取るものがあったのだろうか?
「めちゃくちゃ可愛かったな!」
「今日一番の笑顔で何を言ってるんだお前は!」
「抱きしめたい……いや、抱かれたい!」
「結構気の多い奴なんだな!」
一途じゃなかったのかよ。
しかも相手は子供だぞ……。
「そういうことは思っても黙っておいてくれ……」
「しかし私は阿良々木先輩に隠しごとをしたくない」
「だからって赤裸々過ぎるだろ、お前は」
「赤裸々?」
「裸というキーワードに反応するな! 迂闊に三字熟語も口にできないのかよ、からみづらい
にも程があるだろうが!」
だけど、見境なしというか、別に戦場ヶ原に関してだけ百合ってわけじゃないんだ、こいつ
……女性幻想に限らない様々な幻想を次々と絨毯爆撃のごとく打ち崩され、とりあえずこいつ
には八九寺を絶対に紹介しないことを心に誓いつつ、僕は暗澹たる気持ちをそのままに、神原
に言った。
「……まあ、あれには――関わらない方がいいよ」
吸血鬼。
――の、成れの果て。
吸血鬼。
――の、搾りかす。
それが、あの金髪の少女、忍野忍なのだから。
鬼のいぬ間に洗濯――だ。
「ふうむ。そうか……口惜しいな」
「今日一番の残念顔も見せてもらったところで、もう着いたぜ、神原。さて、忍野の野郎はい
るんだかいないんだか、どうなんだか……いなかったら明日にしようなんてわけにゃ、いか
じゅうたん
あんたん
くや
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ねーからな。僕の命が大ピンチだ」
「……すまない」
「別に嫌味で言ったつもりはないよ。お前が気に病むことなんて何もない」
「いや、それでは私の気が済まない。お詫びはさせてもらわねばならないだろう。そうだ、阿
良々木先輩、阿良々木先輩の好きな色は何色だ?」
「あ? 色? 何かくれるのか? そうだな、別にこれってのはないけど、しいていうなら水
色かな」
「そうか、わかった」
と、頷く神原。
「では、これから阿良々木先輩と会うときは、できる限り水色の下着を着用することを約束し
よう」
「お前のエッチに僕を巻き込むな! 僕のせいみたいになってんじゃねえか! お前はただの
欲求不満だ!」
四階にある、三つの教室。どれも扉が壊れている。いるのなら、この三つの教室のどこか
に、忍野はいるはずなのだけれど――
一番目の教室は外れ。
二番目の教室に――忍野はいた。
「遅いよ、阿良々木くん。待ちくたびれて、もう少しで寝ちまうところだった」
忍野メメは――罅が入って割れまくった、つまずくどころか、裸足で歩いたら深い切り
傷を
負いそうなリノリウムの床に、それはもう腐っているんじゃないかというような変色した段
ボールを敷いて、その上に寝転がったままの姿勢で、開口一番、そんなことを言った。相も変
わらず仔細構わず、まずは見透かしたようなことを言った。
皺だらけの、サイケデリックなアロハ服、ボサボサの髪、総じて、汚らしい風体。清潔感や
清涼感などという単語は、この男とは全く無縁の世界の単語である。この廃墟に相応しい格好
であるといえばその通りなのだが、ではこの廃墟で暮らすようになる前は、果たして、忍野が
どんな見た目だったのかといえば、今やもう想像すらもできない。
忍野は面倒そうに、頭をかいた。
そして、それから――もう辿り着いたというのに、不安からか、それともいかにも胡散臭い
忍野に対する警戒からか、僕のベルトを握った右手を離そうとしない、半身を僕で隠すように
している神原に、気付く。
「なんだい。阿良々木くん、今日はまた違う女の子を連れているんだね。きみは会うた